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小説・この空の青さは-3

 地下鉄の入口の階段を下りるとき、前方がよく見渡せて、真壱の眼には白い洋服の彼女の後ろ姿が鮮やかに捉えられていた。夕刻混み始めた人ごみの中に漂う彼女が、浮き上がるようにまるで輝いて見えている。
 それは階段を下りた後も同じで、人の波間に見え隠れしながらもキラキラ輝いていて、彼の眼はしっかりとそれを捉えられていた。
 さっきの彼女がこっちを向いた時の表情と、その雰囲気が、真壱の頭の中で何度もフラッシュバックする。それが意味するものは何なのか、考えた。

「今日こそ行かないと。もう限界なんだ。そして全てが始まるのさ。今度こそっ」

 「今度こそ」・・・思えばこれが何度目のトライだろうか。火曜日と金曜日、毎週毎週。あのベンチのあの指定席。午後四時ちょうど。女子大の下校路。地下鉄入口の少し前。流れる女子大生たちの中に現れる彼女。
 あの冬の日の別れの後悔は、春の訪れとともにまるで雪のように融け去って、新しい季節の希望が真壱の心Iに芽生えるのだった。
 この世でただ一人「本物の相手」は何処に居るのか。それが彼女かもしれないと思うのは間違いなのか。あの時の二人のインスピレーションは何だったのか。それが何の意味もないとは決して思えない。自分のアプローチが拙かったんだ。それに、野暮な邪魔が入ったこともある。運命の悪戯というものがあるとしても、彼女が本当に「本物の相手」だと思うのなら、そんなに簡単に諦めていいものか。彼女が本当に本物の相手だとしたら、きっと彼女はまた自分の前に現れて、もう一度チャンスを与えてくれるのではないか。
 そして春になり、まるで柔らかい春風に押されるようにして辿り着いたあの指定席。或る日ぼんやりと眺めていた彼女の通学路に見付けた彼女の姿は彼の目にやはり美しかった。一段と綺麗に見えるのは何故だ。春の森に流れるそれは幸福な時間。

 それにしても、彼女が其処に自分を見つけた時の驚いた顔はどうだ。何食わぬ素振で澄まして前を向いて歩く彼女の横顔。それが何を物語るのか。この再会に意味があるのか。彼女は自分にとって何なのか。自分は彼女にとって・・。
 その答えを知りたくて真壱はその指定席に通い続けて彼女を見ていた。いや、見蕩れていたいたというのが本当だった。この自分のインスピレーションは本物なのか、それ自体を確かめるために真壱は其処に通い詰めたのにちがいなかった。
 心の空洞を埋める何かがそこにある。しかしそれは、彼女と出会って初めて実感した自分の中でぽっかりと空いた空間だった。そんな空洞のようなものが本当に自分の真中に存在しているということを、そのとき思い知る彼だった。
 先輩の言う悲観的な恋愛論も気になるが、それよりも、今の彼は、本当の恋愛、本物の相手とは何か・・その答を漠然ながら希求していたのにちがいない。異性として一人の女性を好きになるとはどういうことなのか、その答の希求を彼は体現していた。

 毎週毎週同じ曜日の同じ時間。彼女がそこを通って、彼がそれを見詰める。彼女はそれに気付いて、いつも目が合う。いつしか習慣になったそれは不思議な時の愉しみ。しかし、このままでいい筈はない。
 あの時、「近付けば何かが始まる」と思って差し伸べた手は、しかし届かなかった。決心が足りなかったのだと彼は思った。信じる力が足りなかったのかもしれない。だが、今日は違う。[彼女は待ってる」「今度こそ」・・彼女も今はきっと自分と同じ気持でいるに違いない。

「しまったー」

 真壱は、しっかりと捉えていた筈の彼女の姿を、不覚にもまた見失っていた。またしても人ごみの中に呆然と立ち尽くす彼。今まで聞こえていなかった周りの騒音が突然蘇えり、殺伐とした現実を思い知るようだ。自分のやっていることが、もしかしたら現実離れしたことなのかと、ふと頭をよぎる。
 しかし、何故かホッとしたように「ふう・・」と安堵の溜息が彼の口から漏れた。もしかしたら彼女も同じかもしれないと、そうも思った。あの時の失敗が無意識のうちに心を弱くしていて、後遺症のような蟠りとして、心の片隅に残っていることを、彼はそれとなく知っていた。そして、その克服が容易ではないことも・・。そして先輩の悲観的な恋愛論がそれを強く裏付けてもいた。
 しかし、そんな悲観論など、彼女を見ると何故かへ吹き飛んでしまうのも事実であった。少なくとも今日またそれがたしかに確認できた。そしてそれは最低限の収穫でもあった。

 ホームのベンチに力が抜けたように座っていると、直ぐ横のウォータークーラーの水を背伸びをして飲む少女がふと眼に留まり、暫くの間ぼんやりと眺めていると、何故か、彼がしていることが必ずしも非現実的なものではないと思えてきて、彼女と少女が重なって見え、何故だか彼女への強い想いがまた蘇えってきた。
 それは、その少女が自然に限りなく近いからに他ならなかった。


「いい天気だなあ-」
 大学のベンチで天を仰いでいる真壱の隣で康男が大きな声でそう言った。
「トンビが飛んでら。トンビガクルリト ワヲカイタ-ハ-イ-ノハイ-だ」
 上空の春の青空には確かに二羽の鳶が悠然と空を舞っていた。
「あれはひょっとすると雄と雌だなあ。なんだかなあ-。うらやましいなあ-」
 真壱もそれとなく無言でそのままその鳶の飛行を目で追っていた。
「テメエ、差し詰めまたあの子のこと考えてんだな」
 彼の思い詰めたような横顔を見て康男が少しからかうようにして言葉を投げかけた。
「だいじょうぶ。彼女は何も変わっ ちゃいない。お前と出会った時、その時からね。だいたい誰も近付けないよ。近付くのはヨッポド無神経なバカ男さ。とりあえずそういう心配は無い」
「ちょっと整理してるんだ・・」
「なるほど。それは必要かもね」     
「あれから半年か。・・確かに彼女は変わってない。それだけは分かってる」 
「いや、奇麗になってる」  

 あの場所に一度同行したことのある康夫は、じつは物陰から彼女の様子を一度見ていてたのであった。そして、その只ならぬ雰囲気が二人の間に漂っているのを知っていた。それをメルヘンだと言って楽しむ彼に真壱は励まされていた。そしてまた彼の顔は綻んで元気になった。
「そうっ。そうなんだよな。そうそう。・・綺麗になってる」   
 笑顔になった彼を見て、靖男は更に言葉をかぶせた。  
「まったくもって罪な奴だぜ。ほんとにもう。お前って奴はっ!」
 と言って大袈裟に頭をこづくと、つんのめってしまい椅子からはみだす真壱は、体勢を立直しながらワザと冷静を装って少し惚けた。
「ははっ。だけど、ホントかなっ・・?」
 そのワザとらしい惚けぶりに呆れた彼は、その真意を正すことにした。
「じゃあ、誰のせいなんだ・・」
「それなんだよ。・・だけど、いいんだ。 どうだって。・・つまり、無条件降伏なんだ」
「なにそれ・・」 
 予想外のその返答で康夫の頭に疑問符の灯りが点いた。          
「だから、無条件降伏。どんな条件が付いてたとしてもってこと」
「条件って・・?」
「つまり・・彼女が・・どんな。・・・つまり」
「なんだ・・つまり・・あれだな・・彼女が・・やっぱ、あれだ。つまり・・・処女じゃなくてもっ、ということだ」
 そのあまりにも露骨な彼の言葉に想わず吹き出しそうになる真壱だったが、一部それはじつに的を得たものだった。
「バカッ、何を言うっ。・・でもそうだよ。はははっ。それはとっくに考えたさ。そりゃあ、その方が有難いけど。それが理想ってものだけど・・。こういう時代だからさ。・・つまり、それも含めて全部ってことさ」
 想えば、処女や童貞を恥ずかしいものとして疎む時勢は、いったい何時頃からのことだろう。そんな疑問を投げ掛けたところで空しいだけと、何時の間にか諦めている二人なのだった。
「すごいなあ。俺達にはその理想を条件にする資格が有る筈なんだけどなあ・・」
「まあね。確かに。はは・・。だけどいいんだ。俺は、あの時の、あのインスピレ-ションを信じたいんだ。お互いが求め合う・・何かさ。もしかしたら、本物の・・本物の・・」  
「本物の相手」
 その時、二人の視線は、青空の彼方の一点で重なって、そこに雲のように浮かんだものは、あくまでも美しい彼女の姿に他ならなかった。
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小説・この空の青さは-1

 信州の春は比較的おそい。少し標高のあるここ戸隠は五月に入ってやっと春らしくなる。木々の緑はどれもがまだ若く、芽を閉じたままのものさえ少なくない。遅咲きの花があるように、遅咲きの緑があるようだ。しかし、どの梢も穏やかな春の陽を浴びて、希望に満ちた新しい季節の到来iに歓びを隠しきれないことにその違いはない。

 それにしても今日のこの春の空の青さはどうだ。「青春」という言葉は、人生において確かにこんな日のことを指しているのだろう。 ひらいて間もない若葉がそうであるように、未だ汚れを知らない若者たちは、それゆえにこそ皆一様にこのときいちばん美しく光り輝く。自らの中に持ち合わせた「自然」というD・N・Aの名のもとにおいて。
人は、かつて自分自身が「自然」であったという記憶をいつの間にか喪失し、周りや自らの中に生じた「不自然」に覆いつくされて行く。そして若者は、純粋であるほどにその青春の旅を彷徨う。だが、すぐ傍らの「自然」を見失うことがないかぎり、その道は決して暗いものではない。容易く濁ることのない己自身が内から放つ光をもって。
 
 人の営みにおいて最も自然でなければならないもの。それは他でもない「恋愛」である。それが自然というものから遠ざかれば遠ざかるほどに人の未来は危ういものとなるからだ。 人が自然であるということとはどういうことなのだろう。まずもっては恋愛において。 若者は、その時、初めての人としての試練に直面する。そして挫折し、堕落していく。その真の価値を知って、立ち止まり、安易に諦めることなく克服するに至る者は決して多くはない。そして今、最初の試練を正に目の前にして、輝く季節の中で佇む一人の青年がここにいた。

 「戸隠森林植物公園」そう書かれた簡素なバス停に真壱が降り立ったのはつい先程のことだった。しかしその姿を捜すのには少しばかり困難を要するかもしれない。
 このところの自然ブームですっかり有名になったこの自然公園を訪れる観光客は、年毎にその数を増し、水芭蕉が見頃となり始めるゴールデンウィークには大変な混雑となる。関東や関西ナンバーの大型観光バスが駐車場に居並ぶ姿もすっかり珍しいものではくなった。だが、最後の休日の次の日には、嘘のような静寂が戻ってくるものだ。そして暫くすると満開の時期になり、それが即ち今日である。では、なぜ捜すのが困難なのか。
「よしっ。いいぞ。すごい。そのまま。もうすこし。じっとして。たのむから」 
 カメラのファインダーに右目をぴったりと押しつけたまま、真壱は被写体に向かって声帯を使わない声で囁くようにそう呟いた。
「カシーッ。カシーッ」
 静かな林に響き渡るようなワインダーによる心地よい連続シャッター音は二回で止まった。不用意に被写体が動いたからだ。そよ風がその体を揺さぶったのだ。
「やったー。かもね。よしもう一回」
 そう囁いた後は暫く沈黙が続いた。そして真壱はやっとファインダーから目を離し、難しい体勢のまま太陽の方を見上げた。
「だめだこりゃあ」
 今度は声に出してそう呟いた。そして、撮影の体勢を崩してフーッと溜息をつき被写体の前に座りこんだ。シェードの役目をしていた薄雲が太陽から離れてしまったからだ。
 彼のすぐ前には、薄紅色をした小さなカタクリの花が三つ並んで咲いていた。この花は水芭蕉に隠れたここのもう一つの名物で、まだ緑の無い藪の中で結構な群生を成している。近寄ってよく見れば見るほどに可憐な野生の花だ。そしてそれが彼の今日いちばんの被写体に他ならなかった。
 この自然公園の植物は全てが自然のまま保護されていて、基本的に遊歩道以外はほとんどが立入禁止だが、それほど窮屈なことでもなく、うまい具合に路が張り巡らされている。 背丈十五センチほどのこの被写体にマクロレンズで取り組む慎一の姿は、元々大きくないまでも、まるで同じ大きさのように小さくなっていて、すぐ側を誰かが通りかかっても気づかないほどだ。それにしても、小さな花との対話は静かなほうがいい。遊歩道からちょっと外れた良い場所を見つける事が、ひとつには彼の得意とするところなのでもあった。
「よーし、来た来た。いくぞ。そのままじっとして」
 太陽にまた薄雲が掛った。そしてまた小さな花との対話がまた始まる。腹這いになって、地面に直接置いた一眼レフカメラのファインダーに右目を押しつけて、レリーズに親指をかけ、被写体に優しく注文をつけるのだった。
 アングルファインダーを装着して上から覗くより、この方が気持が伝わるということだ。
「カシーッ。カシーッ。カシーッ」
 野鳥の声に混じって軽やかなシャッター音が早春の森にこだまする。それこそは、真壱と小さな自然との間での束の間のコミュニケーションが成立した、その証に他ならなかった。そして、たしかに、少なくともその瞬間において、彼は「自然」になっていた。
 間違いなくこれはそのせいなのだが、その時、正にその時、真壱の心のその一番真ん中の部分から、ある熱い感情が込み上げてきた。そしてそれは音にならない声になった。
「彼女に会いに行こう。・・そして今度こそっ」
 もともと顔立ちの整ったほうの彼であるのだが、この時はほんとうに良い顔になった。真っ直ぐな心。真っ直ぐな眼。疑いや戸惑いというものが意味もなく消え去っていたのだ。
「明日はあの水曜日だ。早く帰らなきゃ」
 どうしても落とせない単位もあってまずはキャンパス、そして何よりも、彼にはどうしても行かなければならない或る場所があった。はやる気持ちがカメラを扱う手際の良さを手伝っていた。仕種のすべてがスムースだった。濁りのない若い血液がサラサラと流れ、要所要所で理想的な力で供給が行きわたる。そして速やかにその場を離れ、次の撮影場所へとその身を移した。

 この日、水芭蕉は満開だった。正確には八分咲きとうところだろうか。群生の中の古い花が目立つことのないこの頃が写真にするにはちょうど良い時期なのだ。
 真壱が手にするカメラには広角系のズームレンズが装着されていた。目的はカタクリだけではなかったのだ。この白い森の妖精たちの春の宴を風景として捉えようと、細い木道を散策するその姿はカメラマンそのものだった。レンズの詰った背中のザックと肩に掛けた三脚がすっかり馴染んだ風情である。とはいえ服装は全くの軽装で、トレーナーとジーパン、その上に春物のジャンパーを羽織るという、いつもの彼のキャンパスウェアーだ。足元のトレッキングシューズと腰のウエストポーチが機能的に加わっただけである。気候的にも地形的にも充分な訳だが、普段っぽさが特徴的だ。もちろん雨具は携帯している。 TPOの対象は人ではなく、あくまでも「自然」であって、人にどう見えるかとうことなどはどうでもいいことだった。しかし、つい先程すれ違った老夫婦らしき観光客の、背中越しの「あのひときっとプロね」という言葉には、振り向かないまま、おもいっきりニッコリとしてしまう彼なのでもあった。

 学業そっちのけで、日帰りとはいえ、休み明けの平日にこんな所まで来て、自然写真に没頭している彼としては、プロという言葉の響きはたしかに特別なものだった。四年になるところを図らずも留年してしまい、二度目の三年の春を迎えることとなったのも、少なからずそのせいだった。プロという概念は確かに彼の中で膨らんでいた。しかしそれは、いうならば遙か彼方に飛ばす夢の風船のようなものでしかない。そしてそれは、間違いなく随分大きく膨らんでいた。だが、その風船の行き着く場所は、今はだれも知る由もない。
 ひときわ見事なその花の群生の前で真壱はゆっくりとした歩みを止めた。そして、肩の荷を足元に下ろし、三脚の足を伸ばし始めた。「去年よりずっといい」    
 その場所は昨年の同じ頃、同じように足を止めて、同じように三脚を立てた場所だった。「今度こそバッチリだ」
 野花の開花のタイミングを掴むのは難しい。しかし、それ以上に写真のイメージを高めることに専念する彼の姿がそこにはあった。  雲台にカメラを取り付けて「さて」と思った時、横の方からの若い女性の声に気づいた。
「すみませーん」   
 カメラを覗いたりして花に夢中だった彼は、まったくもってその気配すら感じてなかったのかというと、そうでもない。正真正銘二十二歳の健康な独身の男である。いくら純情で、目の前の白い水芭蕉の花に見とれていたとはいえ、年頃の人間の女性が、それこそ花のような香りを漂わせて近づいて来るのに、気づかないほど鈍感でもない訳なのだった。
 その若い女性のハイカーは確かに或る種の香りを発散していた。先程からの遠巻きに青年に声をかけるタイミングを図る姿はどうだ。友達と二人してさんざんモジモジし合った挙句に、からかわれるように押し出された彼女。その雰囲気は特別だった。若葉のように輝いていた。春のせせらぎのように弾んでいた。そして密かに小さな花の蕾を綻ばせていた。振り向くと、それはどう見ても二十歳くらいの娘だった。可愛い子だな、と彼は思った。
「あの、これ、お願いします」
 爽やかな笑みを満面に湛えながら、そう言って銀色の可愛らしいカメラを差し出した。 そして視線が重なった。そのとき、彼女の何かが瞳を通して心の真ん中へと進入してきた。彼はそれを受けとめた。すると、それはまるで居場所を捜すようにしてぐるぐるとその中を巡り回った。
 じつは、真壱は、自分の心の真中に真空のような一つの空洞が有ることを知っていた。それが吸い寄せたものが何かということは分からなかった。だが、何かが確かに瞬時満たされそうな感触を味わったことは事実であった。それはまた、自分の中の空洞を改めて知らされた瞬間でもあった。視線が外れると、それはほんの数秒のことだった。
「ああっ。いいですよっ」
 と言って、真壱はさりげなくカメラを受け取った。見慣れないカメラであった。
「これって、どうするんだっけ」
 最近のコンパクトカメラは日毎進化していて、機種も多様で、真壱が戸惑うのも無理からぬことだった。小さなカメラの操作をめぐって二人の距離は密接だった。ときどき指先が触れあっていた。聞こえるほどに真空がキューッと音を鳴らした。  
「じゃあ行きますよっ」
 構図にさんざん苦心した末、小さなファインダーの中には二人の乙女が納まっていた。学生かな、と彼は思った。そこには確かに、二人の女性が、同じように真ん中に真空を抱えて佇んでいたそして。一人が輝いて見える。
  訳もないような愛しさが彼の心に漂った。真壱はなんでもないことだと思った。よくあることと、そうも思った。何故か、あの子の姿がそのとき浮かんだ。彼の心の空席は一つしか無く、空席は空席のままだった。訳もない空しさが込み上げてきた。空しさを押さえるようにシャッターを切ると、空しい音がした。
「どうもーっ」
 彼女は最高の笑顔を見せながら、青年に近づいて来た。そして手を差し出した。
「はいっ」
 と言って真壱はカメラを手渡した。
 その時だった。二人の手が不用意にぶつかってカメラが落ちそうになり、それを支えるために両手と両手が合わさるように触れあったのだ。「あっ」という声が重なった。
「すみませーん」と彼女。
 ほっとして、二人は微笑み合った。そして視線がまた交わった。なにか熱い空気が流れたと思ったら、ほんのりと彼女の頬が赤らんだように見えた。真壱の視線は、その彼女の顔と瞳をとらえて、釘付けのように微動だもしなかった。そのとき何かが強く吸い込まれるようにして迷いもなく心の中心へと進んで行った。
 彼女の頬は、まるで本当に赤らんだように見える。そして、今まさにその場所に届こうとした瞬間だった。
「あ、ありがとうございました」
 その声は小さくて引き攣っていた。はにかんだその表情は笑顔ではない。そう言いながら彼女は視線を断ち切って、ぺコリと小さく頭を下げた。そして、まるで何かから逃げるかのように真壱にくるりと背を向けた。
 友達を促して、そそくさと木道の歩みに戻ったとき、振り向いてまた一度ぺコリとお辞儀をしたが視線が合うことはもうありはしない。ただの他人の挨拶だ。
 真壱には何が起こったのか分からなかった。そこには、ただ、遠ざかって行く二人の若いハイカーの後ろ姿と、何もなかったかのように、静まり返る空気が残っているだけだった。 真壱はポツンと置き去りになった。心の中を風のようなものが通り抜けて空洞が「ヒュー」と音を鳴らした。     
「カッコーッ」と野鳥の声が妙に響いた。
 見上げると、春ののどかな青い空が、森の上には変わらずに広がっていた。
「よくあることさ」         
 しばらくすると、また、同じところからさっきの熱いものがまた込み上げて来た。そして癒された。
「ま、いいっかっ」
 見上げる空には、あの子の顔が、まるで白い雲のようにポッカリと浮かんでいた。

 古びれた木造のベンチに仰向けになると、空が天井になった。すこし薄めの青色の空に、白い大きな丸い綿雲が、一つ浮かんでいた。そしてそれはよく見ると、ゆっくりと、ほんとうにゆっくりと、右から左へと動いていた。
 真壱は暫くの間、それとはなく、その雲の動くさまをただなんとなく眺めていた。そこにあるのは、ゆったりとした、本当にゆったりとした時間そのものだった。
 萌え黄色の木立ちに囲まれたその単純な風景に浸っていると、自分がまるで自然の一部になっていくようだった。ときどき風が木々の枝先をゆすって音をたてた。鶯の囀る声が遠くに聞こえた。一度つがいの小鳥がチチチと横切った。
 さっきの雲がいつの間にか左の端の方になったころ、真壱は一瞬われにかえった。そして思った。
「これは別世界だ」と。
 
 身を起こしてみると、風景はいとも簡単に元に戻った。遠くの遊歩道を点々とハイカーが歩いているのが見えた。もう一度仰向けになってみた。すると、またいとも簡単に別世界が現れた。「いや、これもたしかに現実なんだ」と彼は思った。
 また、つがいがチチチと鳴きながら横切った。別の雲が右の方に現れていた。目を閉じてみた。すると、音の世界が広がった。風に乗って無数の生命の気配が飛び交う音だ。蜂の羽音も聞こえた。少し経って自分の呼吸の音に気づいた。心臓の音が聞こえる気がした。そして沈黙が広がった。孤独だった。心地いい孤独だ。
 真壱は、ときどき自然の中で、こんなふうにして、ひと時の孤独を味わうのが好きだった。「生きる意味」「生きる歓び」という言葉が彼の頭に浮かんでは直ぐ消えた。その意味を知るためのそれは一つの時間に違いなかった。小さな自然に接しているうちにその意味を何時の間にか考えるようになっていた。それは自分自身の「存在」の意味でもあった。
 その孤独には甘い味が付いていた。真壱には帰る家がある。そこには優しい母が居て、真面目で厳しい父と無邪気で無垢な妹が一人居る。平凡だが幸福な家だ。また、彼には帰る学び舎があり一つの学生番号が付けられていた。平凡だが堅実な大学でありその一学生に他ならなかった。彼の身は確かに安全地帯に置かれているようであり、そんな自由を愉しんでいるに違いなかった。その中で「宇宙の法則」や「生きる意味」がそのうち分かる気がして、とりあえずその答の手がかりは、己の存在、己の才能に他ならなかった。
 彼は「真壱」という自分の名前を気に入っていた。真実は一つと信じて疑いはなく、それを求めるのが好きだった。しかし、そうするほどに理想と現実の隔たりに気付くのは自明でそれは自然の成り行きだった。彼はじつはこの春に図らずも留年していた。それは彼にとって人生初めての躓きだった。道の先の信号にまるで黄色が灯ったようだ。しかし、その事でその想いはより研ぎ澄まされることになった。

「いいのが撮れた。バッチリ」
 瞼の裏に今日撮った花の写真を順を追って投写してみた。「これはまあまあ」「これは傑作」とか呟きながら。しかし、やはり最後に写し出された映像は、彼女の顔だった。目を閉じたまま無意識に微笑んでいた。
「やっぱりこれがいちばん奇麗さ」
 突然、「帰ろっと」と言うと同時に目を明けて立ち上がった。背中を伸ばして思い切り両手を突き上げると、その上には、さきほどの空が大きく大きく広がっていた。

 真壱が長野行きのバスに乗ったのは、午後四時ちょうど位だった。日没にはまだだいぶ間があった。今日のような日帰りの撮影行の場合、いつもなら暗くなるまで現場に居る彼だった。それこそ、ファインダーにいくら目をこらしてもピント合わせが出来ないほどになるまでだ。「見えない。もうだめ。終り」という具合である。
 今日は違った。早く着いて、そのうえ撮影がはかどったせいもあるが、それだけではなかった。「会いたい」という情熱か。たしかにそうかもしれない。しかし彼の場合、それ自体そう単純なものではなかった。明るいうちに電車に乗りたかった。遠ざかる信州の風景をながめながら、ゆったりと列車に揺られたかった。揺られながら情熱を噛み締めたかった。それは、心のなかの或る一つの決意がたんなる衝動ではないことを確かめるために必要な時間に他ならなかった。
 衝動は軽率と同意語だと思う彼だった。
 噛み締めているうちに消えるような情熱ではだめなんだと、そう思う彼だった。

 愛知中央工業大学ー名古屋市の郊外、地下鉄の終点藤が岡から直通バスで二十分ほどのところ。住宅地から離れた丘陵の広大な敷地にその白亜の大学は佇んでいた。無数の雑木林を抱えたこんもりとした山々に囲まれて、すっかり自然に溶け込んでいるようでもある。 創立七年とまだ新しく、偏差値もまだ安定しないような、ほとんど無名に近い私立大学である。三流かというと、その言葉は相応しくもなく、堅実な学風が評判を呼んでいて、まあ二流といったところだろうか。偏差値もたしかに上がりつつある。しかし、そういうこととはあたかも全く関係がないかのように、なんとも長閑なたたずまいであることか。  とくに今日は、風もなく、周りの緑の匂いがキャンパスじゅうに立ちこめていて、静けさたるや正にこの世の別天地たる雰囲気だ。ここが真壱の学び舎だった。
「ピー、ヒョロロロロロロ」
 その上の青空で、一羽の鳶が、まるで守り神であるかのように大きくゆっくりと旋回を繰り返している。
「キロンコローン、カロンコローン、コロンカローン、キロンコローン」
 突然だがまったく自然な感じで、ゆったりとしたチャイムが辺りに鳴り響いた。もちろん小鳥一羽驚かない。暫くすると、出てくる出てくる学生たち。確かにここは学園だった。 『経営工学科』に真壱は在籍していた。製造業における生産管理や人事管理など、つまり工業経営に関する学問を専門に学ぶ学科である。この科のある大学は全国でも数少ない。なぜか人気のない学科であり、倍率もそれぞれの学内で一番低い。工業高校の三年の時に急に進学を思いつき、推薦入学で滑りこんだ彼だった。社会に出る前にもう少し時間が欲しかった。自分を見つめる時間、いや、見いだす時間が欲しかったのだ。そういう意味では充分だった。充分すぎる学び舎だった。

小説・この空の青さは-2

「そうか、またあそこへ行くんだな」
 留年友達の康男が、そう言って、正門前で、並んで歩く真壱の足取りを止めた。
「ああっ」と屈託のない笑顔を見せて立ち止まる真壱。
「今日は水曜日だからな。それにしてもそろそろ進展あるんだろうな」      
「まあ自然の成り行きさ。自然さまさま、神様さまさまだ」
 明るく微笑んだままそう言い放つ真壱に、つられたように微笑んでしまう康男だったが、しかし、すぐに苦笑いになった。
「それにしても、面白い関係だなあ。おまえとあの子は」    
 すると、真壱はおどけたように大袈裟な身振りで、頭を縦に振って頷いてみせた。
「御免、御免、面白いって、つまり、興味深いっていうことで。ぜんぜん可笑しいってわけじゃなくって。つまり、その…言うなら、ある種のメルヘンって言うか、なんて言うか、いまどき無いって言うか、珍しいって言うか、いやいや、つまり、貴重って意味で。そうそう、希少価値って事で。…そういう意味で…楽しみだって訳で…。つまり…」   
 頷いたまま真壱が言い切った。
「いいんだいいんだ。ちょっと無い状況だからな。…特別さ」       
 変わらない彼の笑顔に康男は安心した。
「俺は応援してるんだぞ。冗談ぬきで。本物の恋愛ってのがどんなものか、見せつけられてる様な気がしてるんだ」
 そう言う康男の妙に真剣な顔を見て、同じように真顔になる真壱だが、しかし次の瞬間、突然プーッと噴き出してしまうのだった。
「悪い悪い。お前がそんなこと言うとはなあ。こりゃひとつ頑張んなくっちゃ。それに、メルヘンていうのは当ってるかもしれない。も-しかして、ひょっとして。」
「そうだそうだ。当ってる当ってる。そのとおり、そのとおり」
 ホッとしたように笑って康男がそう言うと、真壱の笑顔がいっそう晴れやかになった。
 しかしまた真顔になって康男が言った。
「だから頑張ってほしいんだお前には。それに先輩の仮説を覆したいからな」
「ああ、あれね。あの恋愛論。チョット悲観的すぎるけど、正解かもね。…日本的恋愛論…。ありうるありうる、はははは」
 と言って真壱は明るく笑った。
「頼りにしてるぜ。俺なんかもう悲惨だからな。せいぜい良いもの見せてくれよ」  
 そのままの笑顔で力強く頷く真壱につられて、また康男が笑顔に戻った。 
 二つの明るい笑顔の上には、初夏の青空が大きく大きく広がっていた。そして、また、一羽の鳶が、ゆっくりと大きく輪を描いた。

 『日本的恋愛論』ー『先輩』ーそれは何か。それは誰か。そのどちらもが、真壱にとってはカルチャーショックそのものだった。だいたい、恋愛論自体、特別に考えたことなど無かった彼だ。ましてや、『日本的』などとは。しかし、一度聞いて理解した。有り得ると。
 それは、一言で言えば「お互いが本気で好きかどうかをハッキリと確認し合わずに付き合う」というもので、なんとなく好きで気楽が一番、それが楽しく付き合う秘訣であって、ハッキリさせたら始まるものも始まらない、と言う。そんな事があるだろうか。そのキーワードは「曖昧」であり、それこそが「日本的」なるものの正体なのだとも。
 しかし、それはどうでもよかった。先輩の話は確かに興味深くて面白いものに違いなかったが、彼はそれほど意には解さなかった。「そういうこともあるだろさ」「しょせん本物は少ないものさ」「関係ないね」ということだ。
彼は基本的に理屈は嫌いであるが、理屈を超えた何か真理のようなものが世の中にはきっと在って、それが何かを知りたいと何時しか思うようになっていた。自然写真に没頭することでそれは自ずと芽生えたのかもしれない。そこにあるのは「自然の摂理」、知りたいのは「真実」であり、求めるのは「本物」だった。先輩の話もそういう意味で面白いのだった。
 あえて恋愛の意味を考えるとしたら、それは本物の相手と出会うことに違いない。たとえどんな恋愛論があったとしても関係ない。特別に必要もないさ。相手が本物であれば。それにしても、本物の相手とは何か、本当の恋愛とは何なのだろう・・。
 あの日あの時、彼女と感じ合った初めての恋のインスピレーション。それが何だったのか、本物ではなかったのか、それをハッキリさせる為に実は真壱は今そこに居た。あの時あの場所に置き去りにした忘れ物が今そこに・・。それは確かに日本的恋愛とは程遠い間逆のアプローチに違いなかった。曖昧なままとか、なんとなくで始まることなんて考えられない。第一そんなことが楽しいものか。そんなことで本物が見付かるものか、ということだ。そして、彼が確かめたいのは、二人の間にあの時たしかに通じ合ったインスピレーションが何だったのか、そこにある真実が何か、ということに他ならなかった。

 人には誰しもが生まれながらにして心の中にどうしようもない一つの空洞があり、人が異性を求め合うのはその空洞を満たそうとする精神的な本能の発露に他ならない。彼の漠然とした恋愛の概念は、言うならばそのようなものだった。学園での先輩や康夫との本物談義の中でそれは次第に具体的になり、明確になりつつあった。そしてそれは、恋愛の本当の意味の希求に他ならなかった。
  真壱が漠然ながら認識する自分の心の空洞は、時にイラスト的な映像で想い浮かんだ。よく有るハートマーク、ギザギザに欠けた片割れである。ただし、あくまでも柔らかく、かつ立体的で、その欠け方も複雑なものなのだった。多分、人それぞれに様々な形をしていて、隙間なくピッタリと合わさる相手こそが本物の相手だと思う。だけど柔らかいから柔軟性もあるさ。いつか自分に合った片割れが見つかるんだ。「何処かに居るさ」そう思えば、それまで幾日かかろうと淋しくもない。そして、心のその片隅に「君だったんだね」という言葉を彼は潜ませていた。そんな出会いの日が来ることが楽しみだった。そのときすべてが始まるんだ。すべてを許し合い、そして信じ合うんだ。それがあの子であるのかどうか、今はまだ判らない。しかし、見るたびに、それだけでそこが満たされるそうになる。きっと彼女も・・。
「自分の中では、じつはもうとっくにピッタリと来ちゃってるんだよね」と、つい先日の事そんな告白を康男になげてみた真壱だった。「じゃあ、そうなんじゃない」と、あまりにもあっさりと答えられ気が抜けたものだった。もしかしたら、それは本当に簡単なことなのかもしれない。

「またあそこへ行くんだな」
「ああっ」
 そして今、真壱の足どり、ただ一直線とある場所へとまっしぐらに向かっていた。

 初夏の日差しが今日はやけに明るくて、全てのものがなんだかキラキラ輝いてさえ見える。
「きっと今日は特別の日なんだ。そうだ、そうなるんだ。きっとそうだ」
 街路樹の緑、街角や花屋の花達、そればかりか、通り掛る全ての人達が、今日は確かにいつになく明るくて、特別の素顔を見せているようだ。 まるでミュージカルのステップを踏むように、真壱の足取りは軽やかだった。雑踏を掻き分けるようにしてどんどん進むそのフットワークはあくまでもスムースである。生なりの綿パンの裾とブラウンのデッキシューズのつま先の軽やかな躍動が自分の目にも鮮やかだった。確かに何かが真壱突き動かして、何かがそこへと引き寄せていた。
 
 バスと地下鉄を乗り継いで、真壱がその場所へ着いたのは、午後三時半丁度ころだった。星ヶ丘駅前。デパートの広場にベンチが並んでいて、その一つが彼の指定席だった。
「余裕、余裕」
 真壱は腕時計を見ながら、そう言ってドスンとその席におさまった。そして、すぐにショルダーバッグから、何やら一冊の本を取り出した。それは写真集であった。「木原和人作品集・光と風の季節」そう書かれたタイトルの表紙は、花の写真を活かした奇麗なものだが、その縁は擦り切れていて、少し古びれた様相を呈している。じつは彼のバッグには、まるで御守りのようにいつもこの本が入っているのだ。二年ほど前に購入して以来ずっとである。確かにそれは夢というお守りだった。自然写真家・木原和人。三十四歳の新進気鋭のその作家は「一匹狼」という異名をとるほどに個性が強く、作品と同時に、時々雑誌の対談のなか等でも、その独自の存在感を表わしていた。既存の写真家集団には所属せず、ひたすらオリジナリティーを追求する彼の姿勢がその異名のゆえんであった。そして、そのことが他でもない真壱の心を捕えていたのだ。間違いなく彼こそ真壱の憧れの人物だった。その写真集のページを捲る度に自然の清廉な風が吹き渡った。心が洗われ、自分自身が自然になれる様な、そんな爽やかな風だった。そして、今こそが、自然になるべきその時だった。
 写真集の醸し出す空気を吸い込むようにして、ひとつ大きな深呼吸をした後、真壱は丁寧にそれをバッグにしまいこんだ。そして、ゆっくりと或るひとつの方角に目を向けた。その眼差しはあくまでも真っ直ぐだった。まるで望遠レンズのそれのようだ。正確にはズームレンズといったところか。とにかく、その先にはひとつの風景があった。流れだ。人の流れ。焦点距離は十メートルほどだった。そしてそれは、まるで逆光に輝く川の水面を眩しく見つめるような眼差しだった。   
 右から左へと動いている人の流れ、それは他でもなく、女子大生の下校風景なのだった。上流には校舎が、下流には地下鉄の駅の降り口があった。水面の光の一つ一つが、それぞれにキラキラと輝きながら流れていく。
 真壱はひととき腕時計に目をやった。四時十分前だった。そして、おもむろにまた視線を戻したとき、一人の女子大生がその流れの中から突然飛び出してきた。そして、真壱をめがけて真っ直ぐに近づいてきた。一瞬だれだか分からなくて真壱は戸惑った。というよりは、心底驚いたのが実際だった。だが、すぐに安堵した。その視線は自分とは微妙にも確実にそれていて、まったくの赤の他人のそれだったのだ。
「ゴメンナサーイ。遅くなっちゃってー。待ったかしらー」
 今風の身なりのちょっと美形のその女子大生は、大きな声でそう言って、真壱の正面ちかくで足を止めた。本当に見知らぬ顔だった。すると、後ろの方から一人の背の高い男が現れて、真壱の前に進み出た。真壱のすぐ側には備え付けの灰皿があった。男は慣れた仕草でそこにタバコの火をもみ消して、女に近づいた。これまた今風の身なりの学生だった。「待ったもいいとこだよ。十分早くきたから余計じゃん」
 男は不機嫌な表情をあらわに、そう言って立ち止まった。真壱の目前での対面だった。
「ゴメーン。ほんとゴメーン」女は両手を合わせて見るからに可愛い表情でそう言った。すると男は一転して笑顔を作り   
「ウソッ。本当は今来たとこ。俺のほうが遅刻だと思った。…なーんちゃって」
 と言っておどけて見せた。   
「ナーンチャッテは余分よっ」
 女はそう言うと、暫くツンとすましてみせたが、すぐに満面の笑顔になった。そして二人は和やかに微笑み合うのだった。
「・・・・」
 それとはなく見ていた真壱だったが、無言のままつられたように微笑んでいた。同年代の学生同士とはいえ、見るからにも自分に比べて随分と大人びている。しかし、微笑ましい情景である。羨ましいとさえ思った。だが、次の瞬間、彼は表情を失った。
「かわいいやつだ」
 男はつかつかと女に近寄ると、そう言って頭を撫で回し、耳元に何か囁いたと思ったら、そのままでおもむろに彼女の頬にキスをした。そして、すぐにそれは唇に移り、女もそれを受け入れた。女の顔が馬鹿になったように見えた。まるで人形劇の舞台の一場面を見るようだった。いや、もしかしたら見せ付けられているのかもしれない。真壱の目にそれは決して自然なものには映らなかった。
そういえば、先輩の言う日本的なるものの正体として表される概念としてもう一つ「他律」と言う言葉があった。自律の反意語であるところの他律ということであるが、「読んで字の如し!」と言うだけで詳しく教えてくれないので困ったものだ。しかし、恋愛とそれにどんな関係があるかについて、面白い話があったのを想い出す。それは曖昧な関係のまま付き合う恋愛の奥義とでもいうもので、世間に二人の親密な関係を晒すことでそれを補うというものだ。「曖昧」と「他律」は切り離せない重大な日本的要素なのらしい。空気を読んだり他人の目を気にする日本人気質は有名であるが、恋愛においてはたしてそんな話があるものだろうか。
先輩には未だ色々と詳しい話を聞く必要があるようだ。まるでノンポリ学生だったの二人は留年した事で何か我に返ったところがあって、恋愛論から始まったその悲観的な文化論の数々がそれぞれ新鮮に響くのであった。二人の無邪気な本物談義の謎解きに先輩の話はどうやら欠かせないようだ。そもそも日本的とは・・。かつて想ってもいなかったそれは大きなクエスチョンマークが二人の頭に点灯していた。

「・・・・」
 目を背ける暇もなく、真壱は目前の出来事に唖然となった。二人の口元がアップになって目に焼き付いたほどだ。だがその時、どこからともなく「ちがうっ」という声が真壱の頭に響きわたった。それは本当にどこからともなく。
 男は女の肩を抱き寄せて、まるで何処かへ連れ去る様に人混みの中へと消えて行った。女は最初と違って随分と貧弱に見えた。
「・・・・」
 真壱の表情は暫くの間消えたままだった。二人の姿を目で追おうともせず、固まっていた。なにか、間違えて悪い映画でも見たような、そんな気分になっていた。一瞬でも羨ましいと思った自分を後悔していた。
 それにしても、「ちがう」という声はどこから来たのか。はっきりとは分からなかった。だが、それは確かに声だった。それは、まさしく生理的なものであり、また同時に、本能的なものだった。いうならば、それこそは真壱の心の底にある本能の叫びだったのであろう。恋愛に何を求めるか、何を指して恋愛というか。そして、幸福の意味さえも、彼はその答を捜していたのだ。
 なにが正論かということとは無関係に、人にはとりあえずそれぞれの価値観がある。しかしだとしても、その叫びのような声は、とにかく目の前で見せつけられた、自分とは違った価値観とのギャップが生んだ、摩擦音には違いなかった。二十二歳で未経験を恥じる者もいるだろうが、真壱はそうではなかった。本物の相手と巡り合うまでは当然のことだった。本物かどうか、それを知るのが恋愛と信じていたのだ。それを知ったとき、すべてが始まる。それでいいのだと。 
 真壱は、まるで水で顔を洗うように、両手を顔面に擦りつけたあと、目を閉じたまま、一つ大きな深呼吸をした。そして目を見開いたとき、われにかえった。腕時計を見ると、針は四時ちょうどを指そうとしていた。思い出したように、慌ててさきほどの流れる風景に目をやった。
「やばい」と思った。
 急に心臓の鼓動が高鳴りはじめた。ドクンドクドクンという音がまるで耳に鳴るようだ。それとは逆に、周りの全ての音が聞こえなくなった。そして流れがまるでローモーションになった。水面の光が輝きを増し眩しくなった。 
 それは時計の針がちょうど四時を指した、まさにその時だった。その風景のいちばん端に彼女は現れた。独りだ。肩ほどの黒髪が風に揺れ、白いブラウスがまさしく輝いているようだ。彼女は美しかった。しかし、美人という意味ではない。それは、いうならば、野の花に似た美しさだった。自然が美しいと同じ意味のそれだった。真壱が重ねたのは野菊の花だが、時にスズラン、そしてカタクリの花だった。野花はけっして華やかではいが、雨に負けない強さと、何者にも混ざらない気高さを持っている。そんな野の花を知る彼は、彼女の魅力の本質をすでに理解しているのかもしれない。
「来たーっ」
 真壱は心のなかで大声でそう叫んだ。その時彼の眼は、ズームレンズのように素早く彼女の横顔をアップで捉えて、暫くはまるでうっとりと見とれてしまった。そして中央付近に彼女が差しかかったその時だった。
 おもむろに彼女がこちらを向いたのだ。そしてアップの彼の視線と交わった。突然、直球が真中に向かって飛び込んできたかのようだ。それを彼は反射的に受け止めた。しかし驚いて、一瞬慌ててズームを引き戻す彼だった。あまりにものアップで腰を抜かすほどだったのだ。だが、彼女は、特に驚く様子もなく、ゆっくりとすぐに前を向き直し、そのまま歩みを進めるのだった。まるでスローモーションで流れて行く彼女。まるで時間が止まったように、それを術なく見送る真壱。しかし、彼女のその横顔は、少しうつむきぎみに、どこかはにかみ、或る種の幸福感を噛み締めている様子であった。少なくも彼にはそう見えた。
「・・・・」
 暫くポーッとしたままの真壱だった。しかし、確かにその時の彼女の様子をしっかりと読み取っていた。そして、意を決して立ち上がろうとした。だが、その動作そのものが、なぜかスローモーションそのものなのだった。
 彼女はすでに彼の視野のフレームからは消えていて、どうやら、地下鉄の下り口の方へ流れて行ってしまったようだ。
 すると、消えていた周りの全ての音が突然騒がしいほどに戻ってきた。
 全ての流れが以前よりもずっと速く感じるのはなぜか。大勢の女子大生が後から後から流れて行く。なにはともあれ、いま真壱は、最小限の或る種の確信をもって立ち上がった。そして、急いでその流れに飛び込んだ。

小説・この空の青さは-4

「去年の冬休みのバイトがそもそもの始まりだあ。俺が見付けたアルバイトだぜ、言うならば俺は愛のキュ-ピットだな」
「ぷっ。なんだか可愛くないキュ-ピットだなあ」
「そんなこと言っていいのか。生涯の恩人になるかもしれん御人に対して」
「ど-ゆ-ことだ?」 
「そ-ゆ-ことだ・・・」
  
 冬休みのアルバイトにと、そのとき康夫が見付けてきたのは、年末の御歳暮の出荷で忙しくなる大手デパートの配送センターの仕事であった。毎年12月になると年内一杯までの短期募集が各大学へ一斉に募集がかかり、男女学生がまるで恒例行事のように大挙押しかける。
 平屋造りの広大な倉庫のようなセンターにはベルトコンベアが張り巡らされていて、商品の種別に設けられた大きなテーブルの上で梱包作業が行われ、その流れ作業の一環が学生達の主な仕事なのだった。売場から送られて来る伝票を元に仕分けされた商品を次々梱包して流すのであるが、同じ商品が山積みになっていて、一つ一つ包装紙で包んでそれに伝票を貼り付けるのは、慣れれば気楽な単純作業にちがいない。紐を掛ける機械もテーブル毎にある。しかし一纏まりの商品が済む間もなく次の商品が伝票と共に大きな台車で運ばれて来て、その流れはまるで止まることがない。とはいえ、流れの速度はゆったりとしていて、そこはまるで学園際の催しのような雰囲気さえある。テーブルごとに時々ある休憩時間や昼食時は正に放課後のそれである。
 男女ともに学生の大半は名古屋近郊の大学であるが、公立・私立・短大・四大・一流・二流、それは様々入り混じっていて、帰省している東京の大学生も少なくない。その多くは友達連れで和気藹々やっている。真壱たちも例に違わずそれは楽しい職場であった。各テーブルは十人から二十人で、バイトリーダーやデパートの担当社員の監視もあるが、けっして厳しいものではない。男女混合の職場なので、身近に女子学生が居ない真壱たちにとって、それはまるで新鮮な学園のようだった。
 そして、彼女との出合の瞬間を、まるで昨日の事のように真壱は思い出していた。

「あんなに凄いインスピレ-ションは生まれて初めてだった・・・」
 
 或る日、一つ向こうの違うテーブルの職場に数人の女子大生が従業員に連れられて配属されて来て、その中に彼女は居た。すると、まるで分かり易いように、そのテーブルの男子学生が急に活気付くのが彼の目にも見てとれた。しかし、真壱の目は、その時一人の女子学生に何故か釘付けになり、他の物が全て色を無くしたようになって、騒音さえも小さくなった。
 女子学生は彼のテーブルには既に数人居たが、こんな事は初めてで、そもそも、そのような出合の期待を特別に持ち合わせてもいない彼だった。此処にはナンパ目的で来ている男子学生が少なくないのが現実のようで、その噂を耳にした彼は「まあ、あるだろけど、関係ないね」とばかりに全く意を解さない様子であった。

「お前は今までガールフレンド作ったことが無いってホントかよ?」
「ああ、本当さ。知ってるだろ。なにか問題でも・・?」
「いや、べつに・・。つまり、その・・」
「作ろうとした事は、まったく無いね。今まで本当に。・・てか、今もそうなんだけど」

 真壱の初恋は、実は小学六年生の時で、その相手は同じクラスの学級委員を務めるそれは可愛い女の子だった。何でも平均点の彼にとって、何でもトップの彼女は正に高値の花に違いなく、それは、ただ遠目に憧れるだけの恋心だった。しかし、恋する気持を初めて知る体験は記念すべき事には違いない。彼女の元気な姿を見るだけで毎日が楽しくて全てがラキラ輝いて見える。それが何故なのか、幼い彼にはそなんな疑問さえ浮かばなかったが、それよりも、まるで手が届かないような己の存在価値に疑問を抱く切っ掛けになった。そして、その疑問が晴れる時まで「彼女はお預けでいい」と、何時の間にか決め込むようになった。

「小学校の運動会のフォークダンスの時にペアになった子と手を繋いだのが最初で最後の女性体験だよ。本当に俺は」
「そういえば俺もそれに近いものがあるわ、ははは」
「Y.M.C.Aの彼女たちとは何もなかったのか、本当に」
「ないない。その前に振られてお仕舞い。それの繰り返しなんだって」

 康夫は前にY.M.C.Aに入っていたことがあり、何人かの女子大生と付き合ったりしていたが、手を繋いだこともないままだったようで、本気で好きになると告白するのだが、その度に振られるという始末なのだった。先輩の唱える恋愛論には真壱よりもそれはリアルに響くものがあるに違いない。まるでSFミステリーの謎を解くように先輩の話に喰いつく理由がそこにはあった。

「なんだ、お前、奥手なのかよ」
「お前が言うなっ」
「それにしても柔らかったなー。彼女の手・・。彼女は学級委員の高値の花で、俺の初恋の子なんだよそれが・・。積極的に強く握ってくる彼女にタジタジだっなあ・・。ああ、懐かしい・・。運動会の練習の度にペアになるんだ。幸せだったなー」
「あの彼女は、もしかして、その子に似てたりするのか・・?」
「え?ああ、そういえば似てるかも・・。ああ、似てるに似てるっ。そういえば」

 彼女は男を釘付けにするような特別な美人かというと必ずしもそうではないが、気軽に声を掛けられない気高さがあり、それは、喩えていうなら、ちょうどカタクリの花のようだった。下を向く薄紅色の小さくて繊細な花弁と、薄緑の葉を添えて細くて小さいながらに凛とした立ち姿が可憐な花だ。またそれは、春の野の片隅で人知れず咲くスミレの花に、秋に咲く野菊の花にも重なって、それはスズランにもなった。花壇や花屋にあるどんな花にも美しさを感じられない彼なのだった。
 そういえば彼は芸能人などにも特別に憧れることはなく、彼の部屋に貼ってあるポスターは、唯一スティーブ・マックィーンだった。「栄光のル・マン」のワンカットのそれは、確かに完成した大人の男の存在感に満ちていて、先ず何よりもそれがその時の彼の憧れに他ならなかった。
 そんな彼は、確かに誰よりも彼女の持つ美しさの本質を捉えているに違いなかった。

「お前は子供じゃないし、彼女も・・期は熟したというところだな」
「完璧じゃないけど、そういうことかも」

 己の価値を己で見付ける。それが真壱の大学進学の間違いなく一番の理由であった。図らずして留年したことで、逆にそれが彼に反動的な力を与え、何よりも、朱に混じらない心の純白が際立つことになった。彼女を見詰める彼の視線には、そんな心の純粋が確かに込められていた。
 その純粋は、特別だった。自然写真に没頭して花や昆虫の小さな自然に間近に触れるうちに、それは知らぬ間に自ずと磨かれて行ったのかもしれない。そこで彼が触れたものは何か・・。先ず第一に、それは見詰めれば見詰めるほどに自分のそれとは比べ物にならない確かな存在感だった。まるで「生きる意味」の答を知っているかのように見えて、真壱は無意識にその答を彼らに何時も問いかけていた。そして次に触れたのは、そんな生命の神秘に関わって間違いなく存在している自然の法則であった。それが何かは俄かに解らないものの、それに触れることで、彼の中に有る潜在的な自然が呼び起こされて、その純粋が際立つことになるのだろう。それは何時しか、彼の眼に、物事の全てに対して真実や本質を求める精神が宿ることになる。そして先輩の話はそれに丁度リンクしていた。
 そう言う意味で彼のインスピレーションは本物だった。その視線は純粋だった。他でもなくそれは「自然」であった。
 そして、驚くのは、そんな彼の視線を感じた彼女の反応だった。隣のテーブルとはいえ、距離があり、人の陰になったりもして見え難いのだが、人知れず見惚れるには逆に都合が良いのかもしれない。しかし彼女は当然ながら、間もなくして真壱のそんな様子に気付くのだった。初めて視線が合わさったその時、彼の目に何かが飛び込んで来た。それが何なのか直ぐには分からなかったが、瞬時に何かが真壱の中に奥深く進入する感覚がその時あった。二人の視線は合わさったまま暫く動かなかった。ほんの数秒がまるで何分かのようだった。彼のそれも同じように瞬時に彼女の奥の何処かに届いた。何だか空洞が満たされるようなあの感覚だ。
 彼女は何故か驚きもせず、まるで何かを受け止めたようにして下を向き、そしてゆっくりと視線を外した。真壱はそれを見届けた。
 彼女とはグループが違うので、休憩時間や昼休みも違う。しかし、彼の眼はどうしてもつい彼女へと。彼女もそれに気付いて、その度に視線が合うのだが、それは、横に居る康夫の目にもあからさまだった。

「俺じゃないんだよな悔しいけど。そういえばお前けっこう二枚目だもんな」
「そうでもないよ。いや、そういう問題じゃない」
「お前は何か特別な色目でも使ってたんか、一生懸命」
「何てえこと言うんだよ。そんなことじゃない。お前にはわかんないって。俺だって初めての事なんだから」
「彼女が色目つかったんだ」
「ばか、そんなんじゃない。だけど、どっちかと言えば同時なんだなこれが・・。何かがシックリと来ちゃったんだ。そうとしか言い様がない。・・これはきっと、ずっと待っていた何かなんだ」
「待ってたのかよ・・」
「いや、待ってたのは、つまり・・・」
「つまり、何だよ」
「俺よりもイケメンで格好のいい男なら、他にいっぱいいるんだぞ」
「俺とかね」
「それに、学校とか何も知らないままで。それが素晴らしいじゃないか。俺の中にある物を見たのさ。他には無い何かだ。お互いの本質が自然に引き合ったんだ。・・もう何もしないでいいような気がしちゃって・・」
「だから、本当に、何もしなかった」  
「そうだったなあ・・。グル-プが違うとどうしてもなあ。昼休みなんかも時間がずれてるし。なんか、何んでも集団単位になっちゃうんだもんなあ。ミョ-にまとまっちゃって、ミョ-に何か枠みたいな物ができちゃった様で・・」
「集団主義というやつだ。このまえ先輩が言ってた。集団主義からの脱却なくしては日本人の真の自立は無いって」
「難しいこと覚えてんだなあ。それ、試験に出るの?」
「試験に出ることだけ覚えてればいいという今の大学教育にこそ問題があるって」   
「わかったわかった。先輩の話は確かに面白いし、俺だって興味ある。だけど今日のところは止めにしよう」

  全てがカルチャーショックのような先輩の話は、真壱よりも康夫の柔らかい脳と空っぽの引出にそれはダイレクトに入って来ていて、時間さえあれば先輩に付き纏うようにして質問の嵐を投げかけるのであった。しかし、その理解力は真壱の方が長けていて、内に秘められていた本物を希求する精神を刺激して止まないのだった。オチコボレの二人にとって、先輩の講義(?)は目から鱗の連続だった。

「とにかく距離があったことは確かだ。だけど接近するチャンスも有ったよな」
「有ったさ。接近どころか接触だよ。完全なる第二種接近遭遇だ」
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Author:sagapo5614
写真集「四季の肖像」の作者です。
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