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この空の青さは⑩

   前を通るカップルの一組が隣のベンチに腰を下ろして弁当を食べ始める。
   何気なくそれを見つめる青年。
   眼が合ってしまい、すぐに前を向きリラックスするように足を組んで、
  目立たない様にチラリと時計を見る。
   時計の時刻・12時55分。
青年「頼むぜ……」
                         (O・L)
   (太鼓のような大きな心臓の鼓動音がゆっくり、ドクン、ドクン、ドクン、
   ドクン、と響き始める)
   時計の時刻・1時00分。
                         (O・L)
   時計の時刻・1時10分。
                         (O・L)
青年「頼むって……。」   
                         (O・L)
   時計の時刻・1時20分
                         (WIPE)
〇回想(学食の三人)
   先輩が正面に座って眩しいような目で青年を見つめている。
先輩「楽しみだな、今度の日曜日。」
青年「(屈託なく微笑んで)はいっ。」
   つられるように微笑みながら
先輩「彼女を信じてるんだな。」
   そのまま黙って頷く青年。
先輩「君は特別だよ。全くもって。」
友人「そう。本当に。まったくもって。」
   あきれたように大袈裟に頷く青年。
先輩「君はもう解ってるんだよな・・」
青年「(キョトンとして)え、何が・・」
先輩「いや、解ってる。解ってる筈さ。いいんだよ。それで。」
青年「すいません。ちょっとよく・・」
先輩「つまり、君の・・使命さ。」
友人「使命。・・そうだっ。使命だよ。使命。」
   と言って青年の顔を見つめ直す。
青年「(惚けたような顔をして)・・・?」
友人「そういえば、この前、言ってたじゃないか。何か、使命のようなものを感じるっ
 て。お前、言ってたよ、自分でさあ。」
青年「そうだっけ・・」
友人「先輩、そうなんですよ。本当なんです。何かでっかい、大きな使命かもって」
青年「かもってね。そう。かもって言った。かもしれないって言ったんだ。」
先輩「充分だ。それで充分だよ。君が今やってること。つまり、それは、・・いいか、
 つまり、それは、・・・神からの使命だっ。」
   一瞬静粛になる一同
友人「(大声で)出たーっ!」
先輩「出たさ。他の誰でもない、彼が一番よく解っていることの筈なんだけどね。」
   と言っw青年の顔を見る。
   真顔で見つめ返す青年。
先輩「君は自然写真をやってるだろ。それでよく自然自然って言ってるじゃないか。
 つまり、君は知らないうちに神に近づいてしまったんだよ。そう、神のすぐ側に。」
友人「神様、自然様、彼女様って・・」
青年「ああ・・たしかに。俺の場合、神様イコール自然だから。自然の元締めってい
 うか なんていうか、神とは、つまり、そういうもので・・」
先輩「少なくとも、君は自然であろうとしている。その自然の意味を知ろうとしてる。
 つまりそれが神の意志を知る事なんだよ。君はもう感じている筈だ。神の視線を」
友人「神の視線・・究極的だな、なんかこれはもう・・」
先輩「ああ。いつもね。それが使命の証だ。神は君のすぐ側に居る。知ってる筈だ」
青年「(先輩をじっと見つめ)・・・。すみません。僕は、たぶん無神論者かもしれ
 ないんですよ。未だ結論は出ていませんが。神は自然の象徴っていうか何ていうか。
 この世の中には自然の摂理というものがあって・・つまり・・それが全てっていう
 事で・・つまり、全ては自然か不自然か、っていうか、何ていうか・・」
先輩「分かった。もういい。とにかく君は特別だよ。つまり、本物って意味でね。
 自然であるって意味だよ。もしかしたら、彼女もな・・・。」
   笑ってウンウン頷く青年。
友人「先輩は無神論者だと思ってた・・」
先輩「そうだ。と、言いたいところだが・・そう言ってしまうには抵抗があってね。
 そのうちに言いたいと思ってる。神とは何か・・それは人類にとって究極の質問
 なんだからして。・・そう簡単には答えられるもんじゃあないよ。ははは・・。
 とりあえず、解り易いように神という言葉を使ったまでのことだ。ゴメン。」」
友人「答えが出たら教えて下さいね・・先輩。」
   笑って頷いた後、急に真顔になって
先輩「こりゃあひょっとしたら世の中が変わる瞬間が見えるかもしれんな、本当に。
 神様も、もう痺れ切れちゃったてことさっ。」
友人「そうですよ。そのとおりですよ。曖昧の壁がぶっ壊れる瞬間が見れますよ。」
先輩「確かに確かに。そうだそうだ。そういうことだ。曖昧の壁の崩壊だ。ペレスト
 ロイカだ。全てはそこから始まるんだよ。・・これは日本の夜明けだな、全くもって。
 曖昧をよしとしない新しい日本人の。・・とにかく、始まることを祈ってるよっ。」
   少し呆れたような笑顔を見せて
青年「本当に相変わらず大袈裟ですねえ。」
友人「なんでもいいから、この目にいいもの 見せてくれってっ。」
                                (WIPE)
O植物園(ベンチの青年)           
   変わらずポツンとしている青年。
   時計の時刻・1時40分 
   彼女に纏わるこれまでの数々の映像が、極めて短い断片的なカットとして、
  鼓動音に合せて走馬灯のようにオ-バ-ラップで駆け巡る。
                                 (O・L) 
   青空からパンして捉えるベンチの青年。
   両腕を頭の後ろに回して無表情で天を仰いでいる。               す   すると、ベンチの前に突然現れる見知らぬ男。
   学生風だがやたらと体格がよく粗暴。
男「お前だな。」          
   座ったまま思わず目を丸くして
青年「えっ?・・・。」           
   急に目くじらをたてて大声で
男「お前かあ。、俺の女に手を出しとるのは。彼女なんか来やせんわっ。一生そこ
 に 座っとれっ。チンタラチンタラしゃらくせえ手紙なんか書きやがって。今時
 はやらねえ野郎だな。童貞だろ。どんなマヌケなか見に来てやったわ」
青年「サイアク・・・」
男「トロイ野郎だぜマッタク。ダセエってんだよ。二度と彼女に近づくなよ。いいなっ。
 彼女はとっくの昔に俺のものなんだよっ。なにが本物の恋愛だ。なにが本物の自我だ。
 訳の解らんことばっか言いやがって。日本的だの何だのと。お前はいったいナニ人な
 んだ。国賊か。ダセエ大学のくせしやがって。とにかくクダラネエんだよっ!。」
青年「なんだこれ。」
男「お前のやってる事はとにかくトロクセエッてんだよ。ハヤラネエノッ。笑っちゃう
 んだよ。誰が見てもな。・・ほれ、見てみろっ。」
   気がつくといつの間にかベンチを取り巻く大勢のカップルや家族連れ。  
   それぞれに青年を見て揃って嘲笑している。
   その様子がだんだん大袈裟になって、罵りと笑いの渦となる。
青年「まさかっ・・・」
                                  (O・L)
       
   元通り独りでポツンとしているベンチの青年。
   ほっとして苦笑いをする。
                                 (WIPE)
   
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⑤それぞれのスタートライン

「森さん、木原さんの後を頼みますよ。」
「はい、光栄なことです。一生懸命頑張らせていただきます。」

 相棒に「ポスト木原和人」の白羽の矢が当たったのは間違いなかった。
 そのための個展が決まってからというもの、とんとん拍子で準備が進んで、急遽上京を決意して、物件探しも始まった。

 東京でのプロデビューが決まるまで、私たちは色々なアルバイトをしながら田舎で武者修行をしていたのであるが、今でいう所謂フリーターであった。
 しかし、それはさすがに長いこと続けてもいられずに、二人とも最後には遂に就職したのであるが、プロデビューが決まったと同時に同様にあっさりと脱サラとなった。
 そして、上京する際には最低限の軍資金を実家が用意してくれた。「アルバイトはもうしなくてもいい」と言ってくれたのは父だった。ペンタックスの佐々木さんが実家に来たりして、プロデビューが本当であることを確信できたのであろう。
 就職して安心した父だったのであるが、本心はそうではなかったのかもしれない。皆勤賞を取る絵に描いたように真面目な堅物サラリーマンの父の意外な一面を見る。
 相棒の実家も、私と同様の考えであったようだが、私よりもプロデビューが具体的であった分、安心しての上京であったのは確かなようだ。

 半年ほど一足速く上京していた私は、既に立川市のアパートに居を構えていたが、それは、ペンタックスがある新宿にアクセスがいいのと、JR中央線沿線だからであった。実家が名古屋なので、一本で繋がっていて何かと便利という理由もあった。実家の所在によって、沿線の町を選ぶ上京者は多いらしいが、本当だと思う。
 相棒のオリンパスも新宿にあるので、中央線沿線を希望して、結局、隣の国立駅の徒歩圏内に丁度いいアパートを見つけて、そこを根城にすることを決めたのだった。賃は7万円で2DKと、私と全く同じであった。事務所兼住居なので、一室を応接
間にして、仕事相手など来客に備えて準備万端という構えであった。とはいえ、所詮アパートなのだから、応接間といっても、それは最低限のものだった。それでもリサイクルショップで調達した小振りの応接セットを置いて、二人とも満足気であった。

 相棒の場合、その上京の必然性は私よりも確かなものだった。オリンパスに於いて、ハッキリと「ポスト木原和人」を告げられていて、そのための個展を開くのだから。
 私は少し羨ましかったが、自分のことのように嬉しかったのは間違いない。上京のための東京の物件情報を集めて送ったり、実際に現地を見て歩いたり、ワクワクしながら奔走したものだ。名古屋の実家から引っ越す日には、レンタカーの2トン車を借りてきて、積み込みを手伝った。慣れないので時間が掛かって、出発が夕方
になってしまったのだが、それが意外な功を奏した。

「おいっ!凄いなっ。あっちを見てみろ。花火だぞっ。綺麗だな。これはいい。」
「おー、本当だっ。よく見える。すごいすごい。」
 
 それは本当に予想もしていなかった光景だった。中央道は多摩川に沿って走っていて、その河川敷において、その日は丁度花火大会があちこちで開催されているのであった。
「ワーッ近付いて来た。スゲーッ。ターマヤーッ!」
無邪気に喜ぶ相棒の瞳に花火の光が確かに映って見えていた。
「これはいい景色だ。お前の上京を天が祝福してるんだよきっと。」
私はトラックを運転しながら、持ってきたカセットテープのうちの一つをデッキに挿入して、スイッチを押した。
 私は映画のサウンドトラックや、ビデオから音をダビングしたカセットテープを幾つか持っていて、撮影に行く時などにも道中にそれをさかんにかけていたものだ。
 二人で撮影に行くとき、運転は殆んど私が受け持っていた。私は車の運転が好きで、どれだけ長距離を走っても疲れないのだ。そして相棒の方はそうではなかった。
 撮影行の時よくかけていたのは「スタートレックだった。正にそれは冒険心を掻き立てられる名曲だと思う。邦画では黒澤明の「七人りの侍」や「用心棒」、山田洋二の「男はつらいよ」など、テープが擦り切れるほどかれて聞いたものだ。
 そして、そのとき私が選んでかけたのは「クレージーキャッツ・デラックス」という映画ビデオのそれだった。日本の高度成長期の勢いが反映した、植木等を主役にする、古沢憲吾監督による一連の喜劇映画を一時間に纏めた歌の名場面集である。
「おおっ、またこっちでも花火やってる。すごいすごいっ!」
「今日はいったい何て日なんだっ。」
 植木等の高らかな歌声に花火が重なって、なんと映えていたことか。その光景は、たしかに、これから大いなる夢を抱いて上京する一人の若者を祝福していた。そして、それは、相棒のキャラクターにこそ相応しいものだった。

 最初の名刺もちゃんと作っておいた。それは、名前の前に「自然写真家」という文字を印字しただけのものだったが、二人とも、それは晴れがましいものにちがいなく、本当に、その出来上がりに心を弾ませたものだった。そして、それが写真展の際に大活躍したのは言うまでもなく、二人とも同様に名刺交換の嵐となった。

 それにしても、私も個展開催の期間中、じつに様々な人と名刺交換をしたものだ。私の場合、東京に知合いが居るわけでもなく、業界に何のツテもなく、ただ「ペンタックスギャラリーでプロとして出発する為の個展を開きたい」と、審査を申し込んで、その許可が出ただけのことである。それがどんな意味を成しているのか、本当のところ良く分からないままなのだ。
 そのような五里霧中のような状況で、個展によって出会うことが出来た多くの人達の中に、写真家の私にとって本物の相手が必ず居るのだと、信じたものだった。

「藤田さんは写真が素晴らしいからやって行けるよ。僕も微力ながらお手伝いさせて頂きますから・・」

 考えれば、同じ歳でャラリー担当の佐々木さんから、最初にそう言ってもらったが、ただ、それだけなのだ。それは正に有り難い言葉であって、どれだけ心強く思ったか。
 もしかしたら、この人が生涯の友で、恩人というべき人になるのかもしれないのだとさえ。私はけっして社交家ではないが、特別に付き合いがわるい人間ではないと思っていて、例えば、飲み食いなどに誘われたら、理由もなく断らないつもりでいるのだ。とりあえず、「来るもの拒まず」という気構えでいるのであった。
 社会には、自分の知らない、想像も付かない価値観や性格を持った人達が居て、そんな人々との出会いというものを、密やかな楽しみにしていたのも確かであった。
 そんな出会いが私をどう変え、或いは変えないか、それを知りたいと思うのだった。

「いやー素晴らしい。とにかく素晴らしい。近年これまでの中で一番素晴らしいっ」

 個展の最終日の一日前の終了時に、突然、ギャラリーの所長が宴席を設けてくれていて、その時に、彼が大きな声でそう言って、パチパチと大きな拍手をしてくれた。それにつられて周りから拍手が巻き起こって、大いに盛り上がったものである。

「本当、本当、この前の・・さんとぜんぜん違う。素晴らしいよ本当にっ」
 佐々木さんが、待ってましたというように、囃し立て、
「木原和人ともぜんぜん違うし、こっちの方がいいっ!」

 隣の見知らぬカメラマンまでもが肩を叩いて祝福してくれている。
 私はもちろん嬉しくて、もうニコニコ顔になって、酒宴の真中に居たわけであるが、酒に強い私は、注がれるビールを全て飲み干しているにも関わらず、全く酔わないのであった。そのためか、妙に冷静な自分がそこには居て、何か一つ不自然なものを、そ
の風景の中に見つけて、得体の知れない不安に掻き立てられているのであった。
それは、その所長の言葉が、じつに唐突に発せられ、その顔が真っ赤で、まったく正気ではなように見えたからである。完全に酔っ払っていて、出来上がっているのだ。それが、明らかに、出来上がるのを待っていたという感じなのである。酒に酔って本心を曝け出しているのだろうか。だとしたら喜ぶべきなのだろうか、と。

「所長さん。昨日はご馳走様でした。ありがとうございます。」
「いやいや、こちらこそ。」
いつも居ない所長が、その翌日、居たので、私はお辞儀をして自然に挨拶をしたのだ
が、何か大事な用事が有るとかで、出かける途中で忙しそうだった。
「今日、最終日となります。大変お世話になりました。」
「こちらこそ。まあ、頑張ってくれたまえ。」

 当り前かもしれないが、昨日のあの赤ら顔が別人のようで、それは冷たいものだった。気のせいだと思って、その時は気にしなかったが、そのギャップに不自然なものを感じずにはいられなかったのも確かであった。

「本音と建前を都合よく使い分ける」という日本社会の特異性について書かれている「比較文化論」の書物を読んで、覚えていた私は、その実例に直面して戸惑ったのた。
 所長のあの時の宴席での私への賞賛は、本音だったのか。それとも私の前ゆえの建前だったのか。・・とにかく所長は間違いなく酔っ払っていた。いや、それが分かるよにして、だらしのない顔を意図的に見せ付けてさえいた。何故だろう。などと。
 そのようにして気にするのは、よくない事で、余計なな詮索だと思う反面、そこに見えていた不自然な何か、それが何であるのかを、私は無視をすることが出来ないでいた。
 そして、その答えが何であるのか、それをひとまずは保留することにしたのだが、最低限後に分かった事は、「酒の席で言った言葉は何の意味も成さない」という結論だった。
 たとえそれがその人の心の底の本心であったとしても。「本心を知ってもらったのだから、どんな建前で処世したところで責めること無かれ」という、それは大人の処世術なのだった。私に対する、あのような解り易い評価の公言は、所長に関してはあの時
が最初で最後、そして、実際の個展の評価がどうであったのか、具体的に知る術は、この世界のどこを探しても、ついに何一つ見付からないのであった。
 考えれば、それは正に、予想していた「曖昧の美徳」の洗礼に他ならなかった。


「所長の本音が聞けて良かったじゃないか。喜べばいいんだよ。」
「いや、俺は素直には喜べない。本音より建前が大事な社会なんだだから。」
「じゃあ、絶賛が建前だったらいいな。」
「そうだな。だけど、あれは、やっぱり本音だと思う。」
「俺だったら、本音で充分嬉しいぞ。べつに何も考える必要ないと思うし。」
「お前は所長よりも先に酔っ払って、本音を言わせて大はしゃぎしてるだろうよ。」
「そうだな、完全に酔っ払って一番赤い顔して、歌の一つでも披露してるよっ。」
「お前は、そこが俺とちがうところで、それが良いところなんだからな。」
 相棒と私は、自分の周りで起きた出来事を、いつも話し合っていて、この時も、東京と名古屋でそんな話を電話でしていた。

「とにかく、お前はお前、俺は俺、だ。俺は深く考えずに楽しくやるよ。」
「それがいい。この社会は『好かれてナンボ』なんだから。お前は好かれるタイプだ
と思うからその路線で行けばいい。俺は嫌われたくはないけど、写真で勝負する。」
「俺はおまえのように写真に自信がないからな。仕方ないし。好かれたいから・・」
 
 私にぴったりとくっついて来て真似をしてばかりいて離れない相棒に対して、私は何時も敢えて突放すところを忘れないでいた。個性の違いを尊重していたのだ。自分に無い正反対の個性を彼は持っていて、それゆえのコンビネーションでもあるわけだ。

 そして、相棒の個展が開催されて、同じように宴席が設けられたが、そこでの彼の様子は想像がつき、大いに盛り上がったとのことだ。そして、状況は私の場合よりもずっと分かり易くて、本音とか建前とか、曖昧とは無縁の状況であったようだ。それに、本人は社交家だから、一遍の間に周りに気に入られたに違いなかった。

  この東京のこの業界で、それぞれがそれぞれの出会いをして、それぞれの道を行く。それぞれの違った道は、違った風景を見せるだろう。その風景は美しいだろうか。 同じ山を登る道だが、そのルートは、やはり違っているようだ。
 時々途中の花畑で落ち合ったりして、励まし合い、仲良くやって行こうではないか。
 
 それが、私と相棒の、似て非なる、二人の正にスタートラインなのだった。

この空の青さは⑨

〇同高原内駐車場
   疎らな車のなかで一際目立つ一台の緑色の年季の入った四輪駆動車。
   車のボディに白い字で『木原和人』『自然写真』のくっきりとしたロゴ。 
   『Profetional Nature Photographing』のロゴも。
   その傍で緊張した微笑みで佇む青年。
   恐る恐る近づいて、車を眺めながら、ゆっくりと一回りした後、立ち止まっ
   てまじまじと車を見つめる。(荷台にギッシリと機材が見える)
   すると後ろから一人の男が近づいて来て、青年に動じることもなくそのまま
   運転席のドアに手を伸ばす。
   突然の事に驚く間も無く
青年「あっ、あのっ、木原さん、木原和人さんですね。」
   キ-をさしてドアを開けたところでおもむろに振り向き、ニッコリとする。
   日焼けぎみのその屈託のない笑顔のスマ-トな中年男は正しく雑誌の本人。
   力強く笑顔を返して一度ペコリとして青年が何か言おうとすると
木原「今ちょうど良いねえ、レンゲツツジ。どう、良い写真撮れた?。」
   と屈託なく言い放って車に乗り込み、
ドアを閉めてエンジンをかけるが、すぐに窓をいっぱいに開けて顔を出す。
   頷いたままの青年ほっとして微笑み
青年「お会いできて嬉しいです。先生の凄い ファンなんです。ほんとラッキ-です。
 そうだ、ちょっと待ってくださいね。」
   と言ってリュックを下ろし、その中から先程の雑誌とペンを取り出して
青年「(ペ-ジを広げて)ここに、え-と ここんとこにサインをお願いします。」
   するとおどけたように驚いた顔をして
木原「お安い御用だよ。」
   と言ってニッコリしてそれを受け取り
木原「こりゃまいったまいった。嬉しいよ。ウレシイウレシイウレシイヨット。」
   と言いながらサインをする。
   嬉しそうに見つめる青年。
   終わってそれを受け取りながら
青年「この前の写真誌の先生の対談のコ-ナ-面白かったです。評論家とトコトンや
 り合っちゃってて、流石だと思いました。」
   顔色を変えてエンジンを止める木原。
木原「(苦めに笑って)ああ、あれ見たの。ははは。実際はあんなもんじゃないんだ
 よ。もっと 凄くやってんだ。ほとんど喧嘩なんだ。」
青年「(少し驚いた様に)へえ-、
 そうなんですか。それは益々面白いですねえ。一匹狼の異名は本当なんですね。」
   と言うと、一瞬力強い微笑を見せて
木原「まあ、評論家にも色々あるからなあ。しょせん写真の目利きなんてまだ居ない
 様な世界なんだし。普段から真剣な写真論議なんてしちゃいないのがオチさ。周り
 を伺ってからじゃないと何一つ物を言えない人間ばかりさ。評論も糞もない。曖昧な
 もんだよ。俺は曖昧なものが一番嫌いなんだ。それでぶつかった。マジな物や出すぎ
 た物は好きじゃないらしい。好かれてナンボって言うんだったら、そりゃ違うってえ
 の。俺は基本的に御機嫌取りはしてないから。それがプロフェョナルッてもんだから。
 まず作品を観てくれよって言ってるんだ。それがどうなのか言ってくれと。」
   落ち着いて一気に喋り捲る彼の雰囲気に少し圧倒された様子のあと
青年「(微笑んで)木原和人は本物ですね」
木原「ハハハ、確かに俺は本物の写真を撮ろうとしてる。そういう意味で本物かもね。
 写真そのもので勝負したいんだ。だから、それ以外の事には敢えて気を使わない。
 写真 が良いか悪いか、それが全てって考え方なんだ。だから俺はアウトロ-なんだ。」
青年「そういうのを本物と言うんだと思います。本物には本物が寄って来るんです・・・。
 近くにそういう人居るんですよね。」
木原「ああ居るとも。多くはないがね。だからやってられるんじゃないか。」
青年「(安心した様に)そうですねっ。」
    微笑む木原。
青年「先生の言う本物の写真って、つまり、オリジナリティっていうことですよね。」
木原「そのとおりさ。それが俺の存在価値ってえもんだからな。」
青年「オリジナリティの追求ですね。」
木原「追求、追求、追求しすぎて嫌われ者。」
青年「嫌われ者・・ですか。・・謙遜ですよね」
木原「まあね。だけど今はいい加減が好かれる時代さ。嫌われてナンボって思うよね」
青年「先生は、本当に本物ですね。」
木原「(苦笑いして)君は学生なのかい?」
青年「そうです。大学の三年。」
木原「カメラ雑誌のコンテストなんかには投稿したりしてるんかい?」
青年「ええ、以前はけっこう。・・だけどいつも入選どまりで、飽きちゃって。そ
 れに審査員、好きなが人いなくって。」
木原「ハハッ、御免。俺、審査員やってないからな。結局は好みの問題だもんな。
 それに、べつにプロを発掘する場所という訳でもないんだし、気楽な世界だ。
 入選クラスに本物 が隠れてるのが落ちさ。君がプロ志望で本物志向なら全然問
 題にしなくていいよ。そのうちドカ-ンって凄い個展を開くといい。」
青年「そのつもりです。まだ先ですが。」
木原「そうっ。楽しみにしてるよ。」
   と言って眼を見つめてニッコリと頷き、キ-を回してエンジンをかける。
青年「どうも。今日はこんなに一杯お話ができて光栄です。どうか頑張って下さい」
木原「いや、こちらこそ。」
   と言って車をバックさせて切り返す。
   車から離れた青年に少し大声で
木原「そういえば僕の新しい写真集がもうすぐ出るから。よろしくねっ。」
   と言って手をサッと挙げて発車する。
   思い切りの笑顔で手を挙げ頷く青年。
   その肩越しに遠ざかる緑の四駆。
   遠くで高く挙げた手を爽やかに振る木原。
   見えなくなるまで立ち尽くす青年。
                                (O・L)
〇同高原スキ-場
   緑一色の高原の斜面に大きく横たわって、何やら撮影中の青年の姿。
   カメラを地面すれすれにセットして、腰のウエストポ-チからピンセットを
   取り出し何やら細かい作業。細かい草の葉を摘まんで取り除いたりする。
   小さなスズランの花の撮影である。
   レンズの前のその白い花の群生。
   手先が伸びて形を整えたり、レフ板の角度やピントを調整したりする。
   構図を決めてシャッタ-を押す青年。
   すると画面が黒いフィルム面となり、小さく風に震えるスズランの姿がシャ
   ッタ-音とともに焼き付けられ、何度も繰り返し横並びに送られて行く。
   その中に現れる彼女の姿。
   とうとう彼女ばかりになる画面。
   地面に頬づえをつき花を見つめる青年。

 ※(挿入歌『糸杉のある風景』流れる)
                                (O・L)
〇幻想(同高原スキ-場・夏)
   辺り一面いっぱいに群生した黄色い夏 の花の中で蝶をカメラで追う青年。
   一つの花にとまった蝶に近づいてアップにするとサッと飛び去ってしまう。
   するとその向こうに彼女の姿が。
   麦わら帽子で微笑む白い夏服姿の彼女。 
   近づくと蝶の様に悪戯っぽく逃げる。
   花畑の中を微笑みながらスロ-モ-ションで走る彼女の様々なモンタ-ジュ。
   ブ-ケを作ってそれを青年に手渡すがまた悪戯っぽく微笑み逃げ去る彼女。
   湖の上で独りでボ-トを漕いで楽しげに逃げる彼女と、それを追う青年。
   それぞれに仰向けに寝そべって目をった二人のボ-トが流れて横に並ぶ。

 ・ゆるやかに川は流れて  
 ・糸杉は遠い山より高く      ・ふと眠り込むときの夢は
  ・鮮やかに辺りいちめん野の花    ・いつもの糸杉のある風景
 ・君は何かを見つけて         ・夕焼けの雲は流れて
 ・僕に笑顔をみせる         ・糸杉に旅する風が宿る
 ・みずぐるま音は流れて       ・透き通るたそがれどきの笛の音
  ・糸杉の梢の影のあたり      ・君はいつのまにかもう
 ・きらきらと輝くものは稲穂か    ・僕の中に住んでる
 ・君は飽きることもなく       ・旅の重さを抱いて
  ・鳥と話をしてる         ・ふと眠り込むときの夢は
 ・旅の重さを抱いて        ・いつもの糸杉のある風景
   


   最後は高原の大きな木の下で並んで腰を下ろし遠くを見つめる二人の姿。
                             (WIPE)
〇青年の部屋(夜)
   机に向かって何やら書き物をしている青年の後ろ姿。
   傍らの屑入れの周りに丸められた紙屑が幾つか散らかっている。
   すると無造作に投げられた紙屑がまた一つポンと屑入れを外れて転がる。
   (O・L)で同じように何度も転がる丸められた白い紙屑。
   何やら書き終えて、それを折り畳んで小さな封筒に入れる青年の手元。
   ライトに透かして見る彼の撮った白いスズランの花の一枚のポジ写真。
   それを丁寧にゆっくりと封筒に入てれ閉じる。
                                 (O・L)
〇街角の広場(例の場所・午後)
   いつもの女子大生の流れと、今日は少し離れた柱の陰で立って待つ青年。
   ズボンのポケットから封筒を出す練習をしてみるその青年の手元。
   現れる彼女。一度こちらを振り向き、俯きぎみにそのまま流れて行く。
   柱の陰から飛び出す青年。通行人とぶつかり少し遅れをとってしまい、急い
   で地下鉄の入り口を下りて行く。
                                 (O・L)
 ※(挿入歌『坂道』が流れ始める)

〇地下鉄のりば(無音)
   慌てて走って来た青年、またしても人とぶつかりこんどはカバンを落として
   しまい、封筒が無いことに気づく。
   雑踏の足元に転がっている白い封筒。
   それを拾ってキョロキョロする青年。
                                 (O・L)
〇地下鉄ホ-ム      
   到着した電車に乗り込む彼女の姿を見つけて慌てて駆けつける青年。

〇同車内
   吊革を掴んでホ-ム向きの彼女、窓越しに彼が前を通り隣から乗り込むのを
   目撃してハッとして緊張する。
   人混みの間に見える彼女の横顔。  
   すると突然こちらの方を向く彼女。
   はにかんだように悪戯っぽくツンとして前を向き直すが、すぐに俯いて恥ず
   かしそうになる彼女。
   惚け顔の青年。
                                  (O・L) 
〇同地下通路
   緊張気味に前を歩く彼女にどんどん近づづいていく青年。
   横に並んだところで声をかける。
   すると立ち止まる彼女。
   一言言ってすかさず封筒を差し出すと、素直に受け取る彼女。   
   何やら言い残して、早々に退散する青年。
   青年の肩越しにそのまま歩いて行く彼女の神妙な後姿。
                                 (O・L)
〇同車内
   走る電車の黒いガラス窓に映る青年の緊張した満足顔。
 
  ・なんとなく息切れがして      ・ここは坂道
  ・額に汗がにじむむから       ・足跡がこれほど有って
  ・ここは坂道            ・道しるべひとつ無いのは
  ・誰かが登り坂と言い        ・誰ひとりこの坂道の
   ・誰かが下り坂と言う        ・果てを知らないからでしょう
  ・僕にはどちらか分からない     ・この坂道を行く人の
  ・僕には分からない        ・若さはいったい何故でしょう
  ・寄りかかる木の杖ひとつ      ・ここは坂道
  ・手に持ちたいと思うから      ・誰かが登り坂と言い
  ・ここは坂道             ・誰かが下り坂と言う
  ・足跡がたくさん有るのは      ・僕にはどちらか分からない
  ・同じことを知った人が       ・僕には分からない
  ・ずいぶんとこの坂道を       ・ここは坂道
  ・通り過ぎたからでしょう
   

   最後は駅を走り去る電車の姿。
                               (WIPE)
〇大学の広場
   俯瞰の後、近づいて捉えるベンチの二人。
友人「そうか・・・、とうとうやったか。」
   頭に手を組み無言で遠くを見る青年。
友人「それにしてもまた一気に勝負に出たもんだなあ・・・。来週の日曜日か。
 植物園とはお前らしいな。・・来るかなあ・・彼女。」
青年「(目を瞑って)・・・。」
友人「つまりデ-トに誘ったてわけだ・・。」
青年「そうだよ。始まることが目的だから。俺は自然のインスピレ-ションを信じ
 たいんだ。本当に自然なアプロ-チなんだ。」
友人「詩を書いたってマジかよ。モロにマジだな」
青年「そう、モロマジ。ははは。いいんだよ自然なんだから。ほんと自然。自然自然。
 なんか自然に書いちゃって。というか、書けちゃって。」
友人「来なかったらどうするんだ。」
青年「(きっぱりと)終わりだ。」
友人「都合わるいって事もあるんと違う?」
青年「住所と電話番号書いてあるから。音信不通でスッポカシだったら最悪さ。とにか
 く来てくれさえすればそれでいいんだ。」
友人「来なかったら終わりなのか、本当に。」
青年「本当にだ。そう書いたから。それまでさ。つまり、ジ、エンド。」
友人「それでいいのか。」
青年「しかたないさ。俺の本当の相手じゃあないってことになるんだ。」
友人「正念場って事だな。お前も、彼女も。根性要るよな、まったくもって。そんじ
 ょそこらの自我なんかじゃやってらんないよな・・。自我。あっ。そうかっ!」
   急に眼が覚めたような顔で立ち上がり
 「先輩の言う本物の自我って。本物の恋愛って。・・そうか・・そうかっ!」
   おもわず顔を見合わす二人。
 「この二つは切っても切り離せないもんだぜ。」
   勢い良く頷く青年。
   まじまじと顔を眺め直して。
 「お前-。いやあいやあ。よくやってるよほんと・・。それにしても大丈夫?」
青年「大丈夫。無理してないし。自然自然。あとは風まかせ。ほんと、そんな感じ。」
友人「あの後遺症は克服できたんだな。」
青年「これでいいんだって思ったのさ。このやり方が、俺のやり方なんだ、って。」
友人「それにしても、彼女に本物を求めるって酷なんじゃあ・・・?」
青年「・・かもしれないね。だけど、ここはひとつ頑張ってほしいんだ、とりあえず。
 お互いが本物になるチャンスなのさ、きっと。そんな無理な事だとも思えなくて。」
友人「来なかったら本当にオシマイ?」
青年「そうさ。本物になれないって事さ。」
友人「お前ってけっこう男らしいんだなあ。男に二言は無いってことだな。」
青年「遊びでやってるんじゃないから。」
友人「あ-、なんだか、もったいないなあ・・・。」
すると、振り向き苦笑いをして
青年「おいおい、ちょっと待ってくれって。俺は彼女になんとしても来てもらいたいん
 だぞ。祈る思いなんだ。へんなことばっかり言ってくれるなよ。信じてだから。」
友人「御免御免、いざとなったら心配になっちゃって、なんだか。先輩の悲観論が
 ここにきてグ-ッとリアリティ-で迫って来ちゃって。彼女大丈夫かなあって・・。
 彼女、本当に本物なのかなあって・・・」
青年「これは俺が考えた自然のやり方。成り行きなんだ。俺の中に有る自然に従った
 最良の方法のつもりなんだ。だから、本当の相手なら解ってくれると決めてもいい
 と思うんだ。・・本物になれる、本物が始まる、最後のチャンスなのさ。」
友人「なるほどな。お前は本当に頑張ったと 思うよ。あとは彼女に頑張ってもらい
 たい よ本当に。ほんと祈っちゃうよ俺。」
青年「神さま、自然さま、彼女さま、だ。」
   と言って大きく天を仰ぐ。
友人「そういえば、手紙で返事が来るって事も充分あり得るよなあ。・・・『お気持
 は嬉しいんですが・・』とか『今つき合ってる人が居るんです・・』とか、断ると
 したら 絶好のチャンスだもんな。」
青年「なんでそう悲観的な事ばっか言うの。彼女は本物だって言ったの、お前だぜ。」
友人「そうそう、良い返事が来るかもな。」
青年「だろ、楽観論で行ってくれよ。」
友人「そういえばそうだった。そうそう、そう・・・『じつは私もあなたのことが
 前からずっと好きだったの。最初はじめて会ったその日から。ほんとうなの。なの
 にあの冬の日、どうして別れちゃったのかしら。馬鹿だったわ。意気地無しだった
 の私って。 ・・許してくださるのね。・・あなたはなんて心の深い人なのかしら。
 私のこと一目見て分かってくださったのね。それが本当に嬉しいの。私も同じよ。
 一目であなたのことが分かるの。』『日曜日が楽しみですわ。だってあなたのこと
 がもっともっと知りたいし。それに、私のことも。なにか素晴らしい事が始まる様
 な気がするの。今度こそ本当よ。だって・・幸せになるためだもの。』・・・」   
   いつの間にか女言葉になって喋っている自分を関心したような呆れ顔で眺める
   青年に気づき、我に返ってブルブルと顔を震り
友人「おっと、どうしたこった、変だな。」
青年「(笑って)それにしても極端なんだからお前って奴は。呆れるよ全く。・・・
 とにかく、そういうのはマズ来ないだろう。」
友人「そうかなあ、彼女の気持になってみたつもりだったんだけどなあ。けっこう。」
青年「生き霊でも乗り移ったってえのか。だったらスッゲエけどな。それにしてもそう
 いう手紙は来る訳がない。何も言わずに来てくれればいいんだ。そうすれば今度こそ
 自然に始まる。・・・それでいいんだ。」
   と言って真顔になり空を見る。
友人「それにしても、おっかないなあ。どうなることやら。来週の日曜かあ、もうすぐ
 だなあ。・・・来月にすればよかったのに。」
青年「そうもいかんさ。夏休みの前になんとかしたいんだ。それに限界なんだよ。雨天
 決行。中央広場の噴水の前。午後一時。」
友人「ひぇ-。雨天順延にすれば良かったのに。・・。一時からどれだけ待つ?」
青年「一時間。二時を過ぎたら諦めるって、そう書いたから。」       
友人「おっかない事になったもんだ。」
青年「そうでもしないと切りがないから。」
友人「(閃いたように)そうだ、今度の水曜、彼女の様子、見てみようか。」  
青年「それはやめよう。野暮ってもんだ。」
友人「そうだな。それ自体おっかない。」
   すると呆れて笑うようにして
青年「おっかないおっかないって、お前、俺をビビらせる気なのか。言っとくが俺は
 全然おっかなくなんかないだぞ。楽しみなんだ。日曜日が。信じてるからだなあ。」
友人「信じる者は救われる。・・ああ、神様、仏様、お奉行様。どうかお助けを・・」
   と言って手を合わせて空を見る。
   それを見て
青年「お前は百姓か。俺が信じるのは自然なんだ。彼女の中に有る自然だ。・・・
 だから、自然さまさま、彼女さまさまだっ。」
   と言って腕を組んで空を見る。
   青空に舞う二羽の鳶の姿。
                                 (WIPE)
〇植物園
   花壇と噴水の有る俯瞰の風景。
   画面いっぱいに映る花壇の花ばな。 
   花越しの向こうにとらえるベンチの青年。
   サマ-ジャケットとカラ-ジ-ンズで少しめかしこんだ出で立ちで、独りポ
   ツンと、両膝に肘で身を置く形で佇んでいる。
   肩越しの賑わう休日の植物園の風景。
   青年の前を通り過ぎるアベックや家族。
   おもむろに腕時計を見る青年。
   時計の時刻・12時四40分。  
              (O・L)
〇回想  
   学食で話し込む三人。
友人「彼は報われるんでしょうか・・先輩。」
先輩「確率でいえば千分の一ってとこだ。」
友人「ひえ-っ。そんなんか。・・もうだめ。」
先輩「ゼロとは言ってないじゃないか。世の中の価値観が変わりでもせん限り本物を
 掴むんだったらそのくらいのリスクは当り前なんだよ。だいたい、本気に好きかど
 うかを確認し合って始まる恋愛なんか有り得んぞと、あれほど言ったのに、彼はそ
 の道をひたすらまっとうしようとしてるんだ。たいしたもんじゃないか。なあっ。」
青年「どうしてそれがそんなに難しい事なのかが、やっぱり解んないんですよ。これ以
 上自然な事は無いと思うんですが。」
先輩「君はもしかしたら本物かもしれんな、もう充分に。頼もしい限りだ。・・だが、
 千分の一って確率は、嘘じゃないんだぜ。 シ-ラカンスにならんようにせんとな。」
友人「・・シ-ラカンス?」
青年「それは御免ですね。だって本物の恋愛がどういうものか解ったんだから。彼女と
 出会って初めてそれが解ったんだから。彼女を好きになるってどういうことか・・・
 本当に好きになるってどういうことか、それが解ったんだから。・・俺は御免です。」
                                (白くF・O)
(F・I)
〇(幻想)初夏の高原
   一本の大きな木の下に腰を下ろし佇む青年と彼女。
   幸せそうに、ただ遠くを見つめている。
 ※(『糸杉のある風景』のインストルメンタル)
青年の声「君は解るだろうか。一目見た時 君の全てが僕に分かる気がした意味が」
 「君は解るだろうか。たとえ君がどんな運命の持主だとしても、僕はそれを受け入
 れられるれると、今すぐにでも言うことができる意味が」
 「君は解るだろうか。君が幸せかどうかということを、僕の人生の最良の道標にす
 るんだと、今すぐにでも言うことができる意味が」
 「君は解るだろうか。君の周りにこそ本当の自分が有るんじゃないかと、素直に
 告白できる意味が」
 「君は解るだろうか。君を見ると、そんな想いが僕のなかで自然に溢れる意味が」
 「君は解るだろうか。それが真実だということを、それがどういうことなのかを」
 「僕には分かるんだ。このインスピレ-ションが、けっして無意味でないことが」
 「僕には分かるんだだ。それがどういうことなのか」
 「君にも分かるだろうか。それがどういうことなのか」            
                              白く(F・O)
 (F・I)
〇回想)学食の三人・つづき      
   腕組みをして、無言のまま青年の眼をじっと異状なまでに見つめる先輩。 
   異様な視線をキョロキョロ辿る友人。
   視線に負けておどけ顔を作る青年。そのまま真剣な表情で
先輩「君は何者なんだ。・・・。」
青年「何者って、・・べつに。・・先輩こそ。」
   よく見ると先輩の瞳がなにか潤んでいる様に見える。
先輩「君は報われるべきだよ。最低限度、彼女には応じる義務がある。君は本物さ」
   思わず声が詰るが直ぐに立て直して
 「だけど完璧じゃないよ。だから彼女にここはひとつ頑張ってもらわんとな。」
友人「どういうこと・・?」
先輩「(意味あり気に)・・・・・・。」   
友人「なんですか。どういう意味ですか?・・やっぱり、自我のことですね。」
青年「いいんです。完璧なんて、そんな、まさか。本物の自我ならともかく、完璧な
 自我なんて。誰が、まさか。」 
友人「そりゃそうだ。だったらこんな苦労してないもんね。もしかして。」
青年「そうそう、してないしてない。」
友人「こんな彷徨ってなんかないって。」
   パチンと大袈裟に指を鳴らして
先輩「そうさっ。つまり、それが青春なんだよっ。」
   一瞬静粛になり
友人「プ-ッ。なんてことをっ。これまた・・・」
先輩「可笑しかないぜ。ちっとも。本物の自我の探究こそが青春ってシロモンの真髄
 なんだよつまり。・・そんでもって、その線上に恋愛ってえのが有るってわけさ。」
   神妙な顔で頷く二人。
先輩「本物の恋愛は、自我と自我の触れ合いでもあるんだからして。裸の自我のな」
友人「裸の自我・・」
先輩「そう、裸の自我。素っ裸のなっ。」
友人「だから恥ずかしいのか・・」
先輩「かもな。・・だけどキンタマ放り出すって事じゃないんだぞ。はははっ。」
友人「分かってますよ。そんな・・。裸と裸の触れ合いが恋愛だなんて、そんな。」
青年「(笑って頷き)裸の意味が違う。それに、反則だ。」
先輩「反則反則。そりぁ本当の裸じゃない。恥知らずってもんさ。本物の自我は見ら
 れて恥ずかしいものじゃない筈なんだ。だいたい隠すべき物ではない。余計な物を
 纏わない素っ裸の自我こそが、青春なのさ。」
   さらに神妙に頷く二人。
先輩「自我の本質が試されるのさ。その時。つまり正にその時な。だから、頑張って
 もらわんとなって・・・。お互いの本物の自我のためにだよ。」
   それぞれに大きく頷く二人
青年「本物になりたいんです。」
友人「えらいっ。」
先輩「そもそも恋愛の完成は人間の自我の完成において窮めて重要なものでもあるん
 だからして。・・・残念ながら。」
友人「やっぱり残念な訳ですか・・」
先輩「まあな。とにかくだ、見られて恥ずかしい自我を隠し合う様な恋愛だけはするも
 んじゃないって事さ。曖昧な自我と曖昧な自我を繋ぐものは結局曖昧な糸でしかない
 んだ。いつ切れるか分からん様な、そりゃあもう細-い細-い糸さ。切れたって、そ
 の 事にさえ気づかんような、そんな糸で繋がれて歩いてて幸せだったら気味が悪い
 ぜ。・・いつ切れてもいいような、切れなきゃ儲け物っていうような、頼りない卑怯
 な、・・そんな恋愛をするべきではないっ。俺は、それを恋愛とは言わないっ。」
   さらに思い切り大き頷く二人。
   芝居がかった身振りで
先輩「(大袈裟に)ああ美しき青春よ。今こそ裸の自我をさらけ出そうじゃないかっ!」                                             (O・L) 
〇植物園
   真正直なたたずまいのベンチの青年。
   ぽつんと独りで前を見ている。
   まさに裸の自我という感じである。   
                                (O・L)

この空の青さは⑧

 (F.Ⅰ)
〇回想(午後のファミリ-レストラン)
   レストランの駐車場でバックで入れようとしてエンストで手間取る先輩。
先輩「ちょっとクラッチ減りすぎてんな。」
   すると突然キュキュッと音を鳴らしてそこに手際良く割り込む小型の外車。
   ブレ-キを踏みハッとする先輩。
   素早く降りてきて前を通る男女二人の小綺麗な学生風の若者四人。運転手に
先輩「おい君危ないじゃないか。それに失礼窮まりない。どこの大学生様かね。」
運転手「(足を止めて)なに?どこでもいいだろ。そんなポンコツグルマでノロ
 ノロ下手な運転されたんじゃこっちが迷惑だぜ。邪魔くさいんだよ。」
   と吐き捨ててさっさと行ってしまう。
   怒りを押し殺す様に苦笑いする先輩。
   クスクス笑い合う他の三人。
                               (O・L)
〇同・列車内
   缶コ-ヒ-の口を開けて、流れる景色を見ながらゆっくり飲み始める青年。
                                (O・L)
〇回想(つづき)
   窓際のテ-ブルでデザ-トを頬張り談笑している先程の四人と、そのすぐ隣
のテ-ブルに着く先輩と二人。
   先輩と先程の男が対面するかたち。
   座るや否や青年に向かって大声で
先輩「そうかっ。彼女ってそんなに奇麗か。大恋愛とは珍しいなあ。そうかっ!」
隣の席の男が思わずこちらの方を見る。
   ニッコリそう言うとコ-ヒ-を三つ注文して、今度は友人に
先輩「しかしどのくらい奇麗なんだ。えっ?」
   ピンと来たように
友人「そりゃあもう、特別というものですね。比べる物がちょっと無いですよ。」
先輩「この中にも居ないか。え?・・・。」
   更にピンと来た友人、思い切って席を立ち、キョロキョロと一回りして、
   最後に隣を見てから席に着き
友人「ぜ-んぜんっ。全滅。もうお見事に。何と言っても種類が違いますから。」
先輩「まそりゃそうだろな。ご苦労ご苦労」
   こちらを向いて黙って不機嫌そうになる四人。
〇同・列車内
思い出して、思わずコ-ヒ-を噴き出
   しそうになる青年。
   流れる車窓の緑の風景。
   トンネルに入って黒くなる。
                              (O・L)
〇回想(つづき)
先輩「それにしても俺は驚いてんだ本当に。今時そんな恋愛ばなしを聞けるなんて
思ってもみなかったよ。世の中捨てたもんじゃないんだなあ。本物を見る思いだ。
 嬉しいよ。せいぜい頑張ってくれたまえ。」
友人「そう、本物なんですよ彼。彼女も。」
先輩「それは頼もしい。本当に頑張れよ。」
青年「頑張るって感じじゃないんだけどなあ。ごく自然の成り行きなんですよ本当に。」
先輩「それは素晴らしい。よくもまあ、この軽薄な世の中に毒されずにいられたもんだ。 
 ひょっとしたら、チョットばかり、世の中変わって来たかな。・・・それもそうだよ
 な。限界にきてるんだこのアヤフヤナ時代もな。そろそろ違った人種が出て来てもい
 い頃なんだ。・・そうだ。そうでなくっちゃ。もうとっくに二十一世紀なんだし。
 そろそ ろ希望の光が見えなきゃおかしいんだ」
友人「希望ありですよ。だって、どういうものかは今一わかんないんだけど、先輩の言
 う日本的な自我の構造にしたって、日本的 恋愛にしたって、あくまでも後天的なも
  なんでしょ。それに例外だって有るって。・・・だから希望ありなんですよね。」
先輩「そのとおりだ。良い悪いは別にして、あらゆる日本的と言えるものはこれ全て後
 天的なものなんだ。なにもDNAとか遺伝子の問題じゃあないんだ。組み込まれてい
 るとしたら、それはつまりシステムにだ。・・さしずめ集団を統制するシステム・・
 その辺りにだ。例えば経営とか教育とかな・・。集団主義にしろ均一主義にしろ限界
 に来てるんだ。じつは、みんな気付き始めてる。今やそれが正論になりつつもある。
 つまりしたがって、希望ありだっ。」
   真顔で聞き入っている二人。
   隣を含め周りを堂々と見渡して
先輩「それにしてもまあ、なんて見事に組み込まれ続けてっいてるんだろうかとは思う
 訳だけどなあ。いったい若者達は何をやってるんだ。これだけアメリカナイズされ
 切ってるってえのに、肝心なとこがそうなってないんじゃあ。マッカ-サ-も中途
 半端なことをやってくれたもんだぜ。個人主義教育を導入しないで従順な個人を温
 存しちゃって、本物の個人主義が根付いていない。本物もいるんだろうけど、大概
 はどっかの淵っこか、さもなきゃ水面下に沈んじまってるのが落ちだ。・・居る筈な
 んだ。・・・どっかにッッ!」
   と言って強くドンとテ-ブルを叩く。
   大きな音がして、一瞬こちら歩向き、静まり返る周り。  
   それを補う様におどけた感じで
友人「(手を挙げて)は-い。ここに居ます。約二名。いや三名じゃないですか。」
先輩「(おどけ返す様にして)ん。・・何処に、え・・あ、ああ、そうそう、灯台元
 暗しだった。わるいわるい。」
   ニッコリする友人と笑う青年。
先輩「たしかに君達は有望だ。しかし本物を名乗るにはチト早いぞよ。かく言うこの
 俺だって、未だ修業中の身なんだから。・・・しかしだ。居る所には居てもらわん
 と困るんだ。本当に出来上がった本物だぜ。本物の自我の持ち主の事だ。」
友人と青年「本物の自我。・・・。」
   無言で強く微笑む先輩。
   静かなまま席を立つ隣の四人組。
                                (O・L)
〇同・列車内
   トンネルを抜けて明るくなる車窓。
   遠くを見つめる青年。
   暫くしてまたトンネルに入る。
                                 (O・L)
〇回想(つづき)
   さらに続いている三人のディスカッション。
友人「日本的自我はつまり本物の自我じゃあないっていうふうに聞こえるんですけど。
 その辺どうなんですか。シビアですね。」
先輩「ハハハ、そう聞こえるかい。じゃあ、自我ってなんだ。考えてみたまえ・・」
友人「・・・それなんですよ。このまえ辞書で引いたんだけどイマイチ解んなくって。
 たしか、意識の主体とかなんとかって・・。でも、自分とは何かって問題ですよね」
青年「人間にとって一番重要なものですね」
   と言いながら紙に『自我』という文字を大きく書いてみる。
先輩「そう、そのとおり。だが答えらんないだろ簡単に。だいたい誰も教えてくれてな
 いからな。つまりそこが問題なのさ。戦後日本教育の最大の忘れ物がこれなんだ。」
友人「クエ-ッ、こりゃまた大袈裟な話だよ。」
青年「マッカ-サ-が忘れたんですかね。」
先輩「そうだよ。民主主義に一番重要なものを忘れやがった。奴は日本人の従順性を
 そのまま温存しようと思って、肝心な所を訴そのままにしたんだ。自立しすぎても
 困るんだよ。だから、自我という概念自体が曖昧なままなんだ。本物の自我が遠い
 所に有っても当然のことだろう。曖昧な自我こそがつまり日本的自我なのさ。武士道
 とか、大和魂とか、筋金なくしちまった以上それに変わるものが必要なんだ…。
 義理、人情、恥の、三種の神器さえ見失ってしまってるっ。」
友人「日本の民主主義は貰いものなんだもんね所詮ってテレビで誰かが言ってました。」
先輩「本当さ。だから未だに根付きがわるい。個人主義って言葉さえ曖昧なままなんだ
 からなあ。大体、我儘って意味になっちまう。つまり個人ってものは我儘なものであ
 って 自由にしたらろくな事ないっていう、古い考え方が、未だに伝統的に息づいて
 るのさ。世の中にゃ。」
友人「いったい、いつからそうなんだろう・・・。」
先輩「ず-っとず-っと、大昔からよ。中国大陸から米と一緒に伝わった伝統なのさ」
友人「コメ。・・米ですか。・・・中国大陸か」
先輩「いわゆる、稲作文明ってやつの事だ」
青年「聞いたことある。日本文明の紀元だ。」
友人「なにそれ。知らね-ぞ。」
青年「稲作だよ。稲作。米、米、米作り。」
友人「だから、米がどうしたの・・え? 」
先輩「米を集団で作ってたんだ。・・集団主義さ…。早い話が・・まり、皆でコメ作
 ってるうちにそうなっちゃったってわけっ。」
友人「へ-え。・・・。」
先輩「とにかく、ソウイウコトなんだ…。」
友人「そこんとこ、もっと知りたい気が・・」
先輩「もういいっ。勘弁してくれっ。」
青年「中国は民主主義じゃないんだっけ」
先輩「だろ。・・とにかく自我という概念の捉え方が極めて非民主主義的だってえ
 事だ。だから本物の自我が何かも解んないままさ。封建主義や軍国主義が育てた
 過去の異物なんだよ。つまりそれは。それがなぜか未だに日本の根底に腐った
 肥しの様に残ってる。つまり、自我という概念を未だに抑える物としてしか捉えて
 ない。そうじゃあないんだよ本物の自我ってえ代物は。」
友人「きましたっ。本物の自我・・・」
先輩「本物の自我は、間違った流れに流されない為の、物事の本質を見失わない為の、
 アイテムだ。・・そう、アイテムっ。自立した個人の為の、基本的アイテムッ!」
友人「(身振りをまねして)アイテムっ!」
青年「(同じように)アイテムっ!」
先輩「本物の自由になくてはならんものでもあるな。我儘な自由とは訳が違う。
 本物の自由。本物の民手主義。本物の自我だっ。・・履き違えた自由にタガをはめ
 たって何の解決もないってことだよ。タガが緩んじゃオシマイだからな・・・。
 とにかく本物の自我を求めないといかんのだ。本物の・・自我だっ。」
友人「だから、つまり、どんな・・。」
先輩「それはつまり、・・・考えれば判る
    神妙に頷く二人。
青年「本物イコ-ル自然ですよ。自然の生き物は全て完璧な自我を持ってるんです。
  てると解るんですが、花でも虫でも鳥でも。存在感がやっぱり完璧なんです。」
   写し出される色々な花や生き物。
   花と対話するような青年の姿。
青年(声)「自然は当り前の様にそれを持ってる。」
先輩(声)「確かに奴らは完璧さ。自分の存在に何の疑いも持っちゃいないもんな。
 一つの生命体として完成してるんだよ。・・たぶん奴らは頭じゃなくて細胞で直接
 それを認識してるんだ。・・つまり、自分が何かってことをな。羨ましい限りさ。」
青年「自我って、つまり、オリジナリティのことでもあるんでしょう。」
先輩「驚いたなあ。ズバリ正解を言ってくれるじゃないの。エゴとかエゴイズムと一
緒にされちゃあ困るんだ。解るじゃないか。自分の価値を知ることそのものでもあ
る。他人や集団に惑わされない自分の価値だ。つまりそれが本物のオリジナリティ。」
青年「本物のオリジナリティー。」
先輩「そのとおり。世の中には同じ人間が二人居ないわけなんだけど、そオリジナリ
 ティを尊重して探究することが重要なんだ。・・今の教育に欠けてるのが多分これ
 だな」
友人「ピンポンピンポ-ンッ!」
先輩「オリジナリティの探究なくして人類の来など有りえないってえもんだからな」
友人「来た来た。益々でっかい話だぜ」
先輩「難しい話じゃないぞ。人類はすでに毎日それをやってるさ。それもごく自然
 にな。人間が生き物である以上それは極めて基本的な本能なんだ。だから、ちゃん
 とやってる訳さ。それが文明を動かしていると言っても過言ではない。オリジナリ
 ティの探究こそ人類の文化的本能なんだよ。」
青年「文化的本能・・・」
先輩「そうだよ。正に本能さ。これが人類を進歩させてきた生物的基本的本能なのさ。
 つまりだ。問題はその本能が純粋に本物として機能してるかどうかって事だな。
 オリジナリティの探究は、言い換えれば真実の探究でもあるんだからして。」
友人「核心に迫ってますよね・・・。」
先輩「真実の探究はつまり本物の探究でもるんだよ。本物が何かが曖昧では困るんだ。
 真実とか、本物とか、オリジナリティを求めるという行為だ。それは、そのままそ
 の国の文化的レベルに関る重要な問題なんだ。」
友人「その国の文化的レベル・・」
青年「本物のオリジナリティの探究ならやってますよ。自分の撮る写真が本物かどう
か何時もたえず考えてるんですから。」
先輩「どうだい、本物が撮れそうかい?」
青年「勿論っ。バリバリのオリジナリティ」
先輩「そうかっ。君は有望だよ充分に。」
青年「テ-マは存在なんです。存在。自然を見つめてると、どうしてもその存在感に
 圧倒されちゃって。羨ましくって。どうしてだろうって。先輩の言う本物の自我
 ってや つをちゃんと持ち合わせてるって事なんですよね。なんだか肖りたい気
持なんです。」
先輩「おおいに肖ろうじゃあないか。彼らには自我という概念も必要ない訳だが。」
友人「それはそうと、本物の自我の持主なんて、世界にも多くはないんじゃないかな。」
先輩「その国のパ-センテ-ジの問題さ。日本的っていうのは実は一つの形容詞なん
だ。つまり、これはなにも日本だけの問題じゃあない。」
友人「そういえば、先輩のあの本・・『日本人 に生まれて損か得か』ってやつ。・・
 俺あのタイトルが気になっちゃってしょうがないんですが。一体どうなんでしょう。」
先輩「ははは。今度貸してやってもいいんだけど、今日は特別に答を教えよう。」
   喜んで頷きあう二人。   
先輩「あの本にある答はこうだ。つまり・・・日本は、本物志向の強い個性でハッキ
 リとしたものを求めて生きようとする者にとって は損な国で、競争を好まず何より
 も安定を求めて生きようとする者には得な国だと。なんとなく気楽に生きるにはこん
 な気楽で得な国が他に有るだろうかとまで言ってる。・・・どう思うかね・・?」
友人「・・・本物志向の強い個性で、安定して、気楽に生きて行きたいんだけどなあ」
   噴き出してしまう青年。
先輩「ハハハハハ。なるほど。いいんだいいんだ。それでいいんだ。そういう若者が
 いっぱい居れば、それが何よりってもんだ。ハハハ、ハハハハハハハ。」
   つられたように大笑いする二人。
   笑いがおさまったところで
友人「しかしやっぱり、本物って、少ないんでしょうか。どうしてでしょうねえ。」
先輩「そりゃあ長年の集団主義、安定主義の代償さ。集団の安泰のためには、個人や
 物事の本質なんか二の次三の次って事になるんだから・・。本当の社会、自由主義、
 民主主義、資本主義の社会ってえのは、そんなもんじゃないんだよ。貰いもんの
 洋服着て、真似事やってれば良い時代は、それでも済んだんだろうが。今はそ
 ういう時代じゃないんだから。世界はとっくに日本を完全な大人とし見てるのさ。
 だから本物の自我ってものを考えるべきなんだ。今こそ。」
友人「今こそ。」
先輩「ああ、そうだとも。政治においても経済においても、日本的なものが限界に来て
 るっていう事はもう判ったことなんだし。曖昧という美徳を盾にしてナアナアの馴れ
 合いをやってるうちに足下をすくわれるってえ寸法さ。」
友人「馴れ合いやってるうちに偽物だらけになっちゃったりして。」
先輩「なっちゃてるよ。本当に。あっちもこっちも、とっくに偽物だらけさ。」
友人「本当ですか?それはマズイじゃないですか。なんでそうなるの?」
先輩「偽物の敵は何だと思う?」
友人「・・・神・・とか?」
先輩「いいや。偽物だって普段から神を味方につけてるからね。神なんてのは、所詮
 頼り無いものさ。ホトボリが覚めた頃に天罰を当てるのがオチだったりするからね。
 無闇に頼りにしないほうがいいと思うよ。来世で報われてもありがたくない。」
友人「クールな先輩。」
先輩「偽物の敵、それは本物だよ。だから偽物は本物をこの世から追いやることに必
 死なんだ。本物は少ないんだから、多勢に無勢、孤軍奮闘空しく水面下ってわけ。
偽物を育んで本物が育ち難い土壌があるんだよ。今のこの国には、きっと。」
青年「本物って、なんだか頼り無いですね。自然も直ぐに汚されちゃいますからね。」
先輩「そうかもしれんな。物事にはすべて本質というものが有るんだ。それを曖昧に
 して二の次にしている以上、いい訳がない。楽な方へ流れちゃうのが人間の悪いと
 ろこでね・・。とにかく、居るべき所には居るべき者が居てもらわんと困るっ。」
青年「本物の自我の、本物志向の、本物がって事ですね。」
先輩「だけど居ないって訳じゃあないんだから。それに世の中の価値観だって変わりつ
 つある。そのうちアッチコッチでお目にかかれる日だって来るだろさ。それが希望
ってもんじゃないか。なあッ。そうだろ・・?」 
   思いきり頷く二人と強く微笑む先輩。
                                 (O・L)
〇同・列車内
   トンネルを抜けて明るくなる車窓。
   眩しそうな目で遠くを見る青年。     
   日本アルプスの峰々が間近に迫る。 
   出してあった一冊のカメラ雑誌を手に取りペ-ジを捲る青年。      
   それは以前に購入した物で、写真家『木原和人』の特集記事。     
   愛車の横に立つ彼の雄姿と作品写真。
   プロの中のプロ・一匹狼『木原和人』という見出しが目立っている。
   再び遠くに眼をやる青年。             
                                 (O・L)
〇回想(つづき)
   更に話し込んでいる三人
先輩「ところで君が憧れてる写真家、木原和人って言ったよな。新進気鋭の。」
青年「そう。そうです。」
先輩「たしかにイイ線いってるよな。本物っていう意味で。行けてる行けてる。」
青年「先輩…知ってるんですかッ?!」
先輩「君が本物だって言うからさ、ちょっと調べてみたんだよ。カメラ雑誌のバック
 ナンバ-とか、取り寄せたりしてね。」
青年「へえぇ-。」
友人「さすが-っ。」
青年「いいでしょ。まず写真がさあ。」
先輩「ああ確かに。写真もイイ線いってる」
友人「先輩、写真わかるんですか-?」
先輩「写真は見れば判るものさ。それに彼の写真家としての位置を分析したまでよ」
友人「やっぱ、さ-すが-。」
青年「新しいんですよ。コンセプトが。」 
先輩「絵としての完成度を追求してるんだよな彼は。そこが正に新しい。俺が思うに
 は・・そこなんだよな。彼が一匹狼たる由縁はだ。完成度を求めるなんて公言して。 
 よっぽどの者だ。そんなハッキリしたこと言わない方が得なんだからさ。誰もつい
 てこれないさ。弟子だって取ってないけど。そりゃあ評論家と口論にもなるわさ。」
青年「先輩、あの対談の記事、見たんですね。」
先輩「ああ。面白かったよ。どこの写真家団体にも所属してなかったり、自己主張が
 強くて、ハッキリした評価を求めちゃったり、そりゃあ、ぶつかるさ。」
   激しく主張する木原の表情の数々。
先輩「彼は要するに、誰もが目を瞑るような真実に目を向ける勇気の有る人間なんだ。
 物事の本質に真向から立ち会ってるよ。」
青年「…本物なんですよね。」
   無言で微笑み、頷く先輩。
                                (F.O)
 (F.Ⅰ)
〇同・列車         
   ますます近づくアルプスの山々。
   緑の中を駆け抜けて行く列車の姿。
※(挿入歌『くぐりぬけた花水木』が流れはじめる。
                                                    
〇信州乗鞍高原(六月中旬)
   レンゲツツジが咲き乱れる高原。     
   点在する笑顔のハイカ-達。
   その中を散策して歩くカメラマン姿の青年。
   三脚を立てたりして撮影する。
   小さな草花にカメラを向ける青年。
   さまざまな初夏の高原の自然風景。
   満開の野生の白いスモモの林を潜り抜ける。
  そして小さな湖のほとりを行く。
  
 ・その花の道を来る人の       ・なぜか君のことを
 ・明るい顔の不思議さに      ・なぜか君のことを考えてます
・くぐりぬけてみる花水木      ・その鮮やかさは何もかも
・何処とあてもない旅先で      ・捨て去ってきたこの僕の
 ・そぞろ歩きの空と道        ・旅を見くだす花水木
 ・囲みつくした花水木        ・敷きつめた花のやさしさに
 ・なぜか君のことを        ・こんな場所なら君を今
 ・なぜか君のことを考えてます    ・すぐにでも呼びたい花水木
 ・あれほど疲れていた僕が      ・なぜか君のことを
 ・何か夢でも見たような       ・なぜか君のことを考えてます
  ・まどろむ光の花水木        ・その花の道を来る人の
 ・立ちすくむ人の心には       ・明るい顔の不思議さに
 ・押し花にした思い出が      ・くぐりぬけてみた花水木
 ・よみがえり咲くか花水木   
                      
                                        (O・L)

この空の青さは⑦

〇街角の広場(いつものベンチ)
   頭に手を組み天を仰ぎ物憂げな様子。
青年の声「このままで良いわけないって、彼女にも思ってもらいたいんだ。」
友人の声「彼女があそこを通って、その時そういう雰囲気だったら、決まりだ。」
青年の声「その通りなんだけど・・・。」
   いつもの方向へ眼を向ける青年。 
   いつもの女子大生の流れ。
   次第にスローモーションになり、音も消える。
友人の声「そういえば、彼女だってべつに名門って訳でもないんだし、勇気出せよ」
青年の声「そんな事は関係ないよ。」
友人の声「オイッ。喜べ。彼女は本物だぞ。お前の本物の、相手だっ。」
友人の声「お前は彼女を幸せにできる。それに彼女はハゼでもメダカでもないっ。」
友人の声「よしっ、わかった。彼女はお前を好きだ。彼女はお前を待ってる。」
友人の声「お互いが本気で好き同士を確認し合っての恋愛なんか有るもんかって。」
友人の声「本物だぜあれは。お前と彼女が常識をぶっ壊せ。百パ-セントなんて嘘だ」
   スローモーションが大きくなりドク、ドク、ドク、ドク」と心臓の鼓動音が起る。
   すると暫くして彼女が現れる。
   独りの彼女。
   どこか緊張感を漂わせ、中央付近で、またおもむろにこちらの方を見る。
   すぐにまた前を向きそのまま歩いて行くが、俯くその姿がどこか淋しそう。
   心臓音が消え沈黙となって、もう一度その様子をアップでとらえる。
   それは幸せと淋しさが合さった表情。
   それを見つめる青年。
   超スロ-モ-ションでとらえるその時の彼女の決定的な表情。
   突然すべての音と速度が戻り、そのまま歩いて行く彼女、流れて消える。
   正面を向いて考える様にして暫くの間身動きできずにいるが、突然ハッとしたよ
   うに立ち上がり後を追う青年。

〇地下鉄のりば
   見失って人混みのなかでキョロキョロとする青年。首を傾げる。

〇地下鉄ホ-ム
   それほど混んでいないホ-ム。
   すぐ近くの乗車口に目立つように立っている彼女。
   程なくそれに気づきハッとなる青年。
   しかし身動きできずにいる。
   真っ直ぐ前を向いたまま何とも言えない横顔で佇む彼女と、対峙するように
   それをじっと見つめる青年。思い切って一歩進み出る。
   すると電車が到着し、降りる客で混んだ後そのまま乗り込む彼女。

〇地下鉄車内
   ドアが閉まりかけになって初めてハッとして、思わず慌てて乗り込む青年。
  ※(挿入歌『愛が壊れそう』が流れる)
   一つ隣から入った青年、人混みの間から恐る恐る彼女の姿を捜す。
   人の間から見える彼女の姿。入り口の反対側のドアの窓にピッタリと貼り付
   いた様になり真っ直ぐ外を見る彼女。
   期待と恐れが混じり合った様な表情。
                                 (O・L)
〇地下鉄のりば(回想)無音
   先程の、彼女を見失ってキョロキョロする青年。しかし彼女はその手前の横
   の壁に佇んでいて、それを見ている。
   一瞬肩を窄めて悪戯っぽい微笑をうかべるが、はにかむ様な緊張感が漂う。
   グルッと見回すが気づかずにいる青年首を傾げながら切符売場の方へ行き、
   何やら切符を買って改札を入って行く。
   それを見ていた彼女、暫くそのままでいるが、おもむろに同じ改札を入る。
                                 (O・L)
〇地下鉄ホ-ム(回想)無音
   先程の、ホ-ムのベンチにいる青年。
   それを見つけた彼女、一瞬とまどうがそのまま進み、見えるような微妙な位
   置の乗車口に立つ。緊張した表情。               
                                 (O・L) 
〇地下鉄車内
   人の間から青年の姿を見つける彼女。゛
   ドアのガラスに貼り付いたまま黒い窓の外をじっと見つめる。    
                                 (O・L)
〇回想
   バイトの時、遠くから青年をひっそりと見つめる彼女の幾つかの表情。
                                 (O・L)
〇地下鉄車内
   ドアのガラスに貼り付いたままの彼女。
   或る駅で停車してドアが開くと、そのままの表情で電車を降りる彼女。
   気がついて慌てて飛び降りる青年。 
〇地下通路
   そのままの表情で通路を真っ直ぐに歩く彼女。
   青年の肩越しの彼女の後ろ姿。
   
  ・ガラスの扉を叩くのは誰       ・ためらう私を許してほしい
  ・きまぐれな言葉かと震えています   ・幸せが重すぎて震えています
  ・いつも笑顔でおどけてみせる    ・いつも帰り道あなたの愛を
  ・爽やかなその仕草胸にやきつく    ・かみしめてその言葉繰り返してる
  ・一度でも愛してると言えば      ・明日には愛してると
  ・あなたは喜んでくれますか      ・幾度想って夢を見たことでしょう
  ・ガラスの扉を開ければすぐに     ・ガラスの扉を開ければすぐに
   ・壊れそうこの愛が 風が強くて   ・壊れそうこの愛が 風が強くて

 
   歌が終わり彼女角を曲がって消える。
   暫く立ちすくむがまた歩き出す青年。
  (再び『愛が壊れそう』の伴奏がスリリングに流れだすが、青年が同じ角を
   曲がったところで音楽が消える)
   長い通路の先を行く彼女の後ろ姿。
   立ち止まる青年の後ろ姿。
   突然振り向く思い詰めた様な表情
                                  (F・O)
 (F・I)
〇想像(1)
   同じ伴奏と共に彼女に近づいて行き、
   並んだところで何やら声をかける。
   (以下同様にコマオトシふうの映像と少しエコ-のかかった音声)
青年「やあ、こんにちわ。」
   驚いた様に歩きながら振り向いて
彼女「ああ、びっくりした。」
   と言って胸に手を当てはにかむ。
青年「驚かせてすいません。」
   と優しい笑顔で言うと、歩いたままに俯いて黙っている彼女。
青年「少し時間いただけませんか。」
彼女「(俯いたまま)私、急ぐんですけど」
青年「ほんの少し。つまりお茶でも。」
彼女「俯いたまま)本当に急ぎますから。」
青年「またそんなことを言うの?」
彼女「(俯いたまま)・・・。」
青年「どうしても君と話がしたいんだ。」
   すると急に立ち止まり、顔を上げて
彼女「(困った様な顔で)話って何ですか?。だいたいどうしてあなたがこんな所に
 いるんですか?困るんですけど。」
青年「(驚いた顔になり)いや、その・・・」
彼女「失礼しますっ。」
   と言って歩き出す。
青年「あの、ちょっと、・・・。」
   立ち尽くす青年を置き去りにして足早に去って行く彼女の後ろ姿。

〇想像(2)
   同じく伴奏と共に彼女に近づき
青年「やあ、こんにちわ。」
   驚いた彼女一度ふり向きペコリとするが、何も言わず緊張して歩き続ける。
青年「驚かせてすみません。」
彼女「(無表情のまま)・・・。」
青年「少し、話、いいですか?」
彼女「(引き攣った様な微笑みで)あの、私急ぎますから。」
青年「ちょっとでいいですから。」
彼女「(更に引き攣って)すみません。」
   と言ってだんだん足早になる。
   ついて行くのがやっとの青年。
青年「いや、その、・・・。」
   走り出す彼女と諦めて立ち止まる青年。
   どんどん遠ざかる彼女の後ろ姿。

○想像(3)
   同じく伴奏と共に彼女に近づき
青年「やあ、こんにちわ。」
   極端に緊張した彼女一瞬ふり向きペコリとするが、すぐに足早になる。
青年「あのっ・・・どうして僕ここに居るんだろうねッ?」
   と言うと、一瞬足を止めて、首を傾げた後
彼女「・・・もういいです。」
  と言って、足早に歩き出し、とうとう走り出す。
青年「あのうっ・・・!」
   立ち尽くす青年の後姿と、遠ざかって行く彼女。

〇想像(4)
  同じく伴奏と共に近づく青年。
  その気配に気づいた彼女、ちょっと後ろを振り返った後だんだん足早になり、
  そのまま逃げる様にして行ってしまう。
  思わず追いかけるが諦める青年。
  ポツーンと置き去りになる。
                                白く(F・O)
 (F・I)
〇地下通路
   現実の青年、諦め顔で
青年「・・・だめだこりゃ。」
   と言って再び振り返る。
   前方の現実の彼女が出口へと姿を消す。
   『フ-ッ』と一つ大きな溜息をつき、人気の疎らな長い通路を肩を落とした
   様にゆっくりと帰る青年の後ろ姿。
※(挿入歌『夕ぐれの河に』が流れる)
              (                    O・L)
〇夕暮れの街角
   灯の点り始めた黄昏の街角をそのまま淋しそうに歩く青年の姿。
   電飾のネオンや流れる車のライト。
   なぜか目に付く都会の暗い夜の一面。
   援助交際ふうのコギャルと中年のカップル。
   酔っ払いや車同士の小競り合い。
   風俗店の下品な看板。
   呼び込みに声をかけられる青年。
   すべてに気をとめず、通り抜ける青年。
   橋の欄干に肘をついて夕空を見つめる。

   ・夕暮れの河に僕は         ・閉じ込めた愛の重さを
  ・小石を投げています       ・心が支えきれなくなって ああ
  ・あなたは空を見ています     ・夕暮れの河に僕は
  ・僕の投げた石は河のおもてに    ・小石を投げています
  ・淋しい音を残して沈んで行きます ・ほんとは愛を投げてます
  ・あなたに愛を告げることは     ・君に告げる筈の僕の愛が
  ・桜貝をこわすようだと       ・淋しい音を残して沈んで行きます
  ・自分ひとり信じこんで
 

    川面に映るネオンや黄昏の色に波紋が広がる。
                                 (WIPE)
〇青年の実家(夜)
   住宅街の一角の慎ましい一戸建て。

〇同リビング
   奥の流しで洗い物をする母と、ーそれを尻目にソファ-で一人でテレビのトレ
   ンディ-ドラマを観ている妹。
   暫くして青年が現れて離れて座る。
青年「これ、けっこう面白いんだってな。」
 「どうなってんのこれ。」
妹「チョット黙ってていいとこなんだから」
青年「なんだか盛り上がってるみたいだなあ。この辺でオシマイだろ今日は。
 絶対だよ。トゥ-ビ-コンチニュ-てなもんだ」
妹「シ-ッ。うるさいうるさい。あっ」
青年「ほら、な。」
妹「も-、観てないんだったら来ないでよっ」
青年「予告編、予告編。相当モチャカッテルみたいだなあ。へえ、へえ・・・。」
妹「何よ、ケチでもつける気。視聴率すごいんだから。み-んな観てるのよっ。」
青年「知ってますよ、面白いことは。だけど結局は三角関係の話なんだろ。」
妹「そうよ。それがいいんじゃない。」
青年「赤い糸があっちこっちでコンガラガッチャッテ、切れたり結んだり、そういう
 話だろ。阿弥陀くじみたいな。」
妹「かもね。だけど本当にいいとこはね、いろんなライバルとか障害とかが有って、
 そういうのを乗り越えて初めて本物の愛をつかむとこなの。それが本物の恋愛なの。
 つまりねえ、みんな本物が見たいわけ。」
青年「本物の恋愛か。先生言ってくれますねえ。ご経験が沢山お有りのようで。」
妹「ばか、そんなの有るかよ。」
青年「ははは。だけど典子よかったよ、お前、女子高で。毎日平和だろ。・・・さも
 なきゃ大変だぞ今頃。ちょっと美人だと寄ってタカってもうヒッチャカメッチャカ始
 まっちゃうから。そうなったらもう理想もクソもないからな。よかったよ平和でさあ。
妹「(気を良くして)そう。そうかもね。」
青年「若い時に理想をうんと高くしておかなきゃ駄目なんだ。途中で勘違いして出来上
 がりなんて事になっちまうんだからさあ。その調子で磨いとくといいよ。」
妹「良いこと言うわねえ。・・・それって、つまり私が美人ってこと?」
青年「(苦笑いして、小声で)そう取るか。・・・実はちょっと典子先生に一つ聞
 いてみたいことが有りまして。」
妹「なに・・?」
青年「例えばだけど。自分の理想の相手が突然現れて、じつは相手もそうで同時に一
 目惚れしたとする。いいか・・・そんでもって、そのことがお互いに分かっちゃっ
 たら・・・、どんな感じ?」
妹「どんなって、嬉しいに決ってるじゃん」
青年「そうか。ほんと。そうかなあ・・・」
妹「当り前でしょう。相思相愛なんだから。この世はバラ色-って感じ。」
青年「ははは、そうか、そうだよな。」
妹「もう-。なに寝惚けてんのよ全く。」
青年「じゃあ、その相手が、ある日ほんとうに告白してきたら、つまり好きだって事
 をだけど、・・・どんな感じ?」
妹「そりゃあもう嬉しい極致よ。当然。」
青年「ほんとに?。それだけ?……」
妹「何よまた-。本当に決ってるでしょう。嬉しすぎてブッ倒れちゃうくらいよ。」
青年「ブッ倒れちゃう・・・?」
妹「そう。本当にブッ倒れるかもしれないわ」
青年「どうして?」
妹「・・・さあ-。・・・だってぇ・・・」
青年「恥ずかしいから?」
妹「・・・。そうかもしれない。・・・そう、 そうねえ。小っ恥ずかしいって感じ。」
青年「それでどうする。やめちゃうのか。」
妹「・・・まさか。始まるのよ-。(身振りを付けて)パララ-ララ-ッて。」
青年「そうか・・・とにかく嬉しいんだな。」
妹「そう。そりゃもう究極的。バラ色を通り越して虹色ね。だからラララーララー・・」
青年「解った。サンキュ-。もういいよ。」
妹「なにそれ。へんなの-ー。」
青年「つまり最大のライバルは自分だっちゅう事だよ。一対一の恋愛ができなくちゃあ
 三角関係もクソもないからな。わかる?。」
妹「(首を傾げながら頷いて)・・・?。」
青年「まあ、その時になってみないと解んないと思うけど。それまでに負けない自分っ
 てものを作っておかないとな。典子も。」
妹「えらそうに-。・・・何か有ったの?。」
青年「ノ-コメント。・・・」
妹「もう-。」
                                 (WIPE)
〇大学食堂(午後)
   青年と友人が窓の外を見ながら向かい合って座り寛いだ感じで話している。
友人「そうか。バラ色で虹色で、嬉しくって、ブッ倒れそうで、小っ恥ずかしいか。 
 ・・・なるほどねえ。」
青年「まあ、正直なとこだと思う。」
友人「嬉しいのはいいんだけど、恥ずかしくってブッ倒れちゃって、ヤ-メタなんて事
 になったら、・・・困るよなあ。」
青年「妹は始まるって言ってるけど、何ぶん空想の世界だから。あいつの場合。」
友人「それにしても、そういう物にもやっぱり憧れてはいるんだなあ、今時の女子高生
 なんかでも。」
青年「そりゃあそうさ。そうでなきゃ。」
友人「ロミオとジュリエットが古いなんて誰も言わないもんな。・・・あんなヘビ-
 で暗い話、古臭くてペッペッなんてことになったら、世の中おわりだよな。」
青年「空のトンビに負けちまう。」
   と言ってボンヤリ空を見上げる。
   つられて友人も空を見る
    すると突然、先輩の大きな声。
先輩(声)「そうっ。そのとおりっ。」
   驚いて振り向く二人。
友人「センパ-イ。」
先輩「(椅子に座りながら)そうなったら、本当に世の中おわるぞ。いいか、本当に
 だぞ。全くもって本当に終わる。」
友人「またまた。先輩、大袈裟なんだからあ。」
   言葉を遮断するように手を差し出して
先輩「残念ながら大袈裟じゃない。つまり、恋愛のあり方というものが、人間にとって
 それだけ重要なものだという事だ。」
   と言い終えてサッと手を下ろす。
   言い知れぬ説得力にしばし唖然とする二人、思わず顔を見合わせる。
先輩「わかるか。え?」
   揃ってウンウンとしきりに頷く二人。
先輩「まさしくトンビに負けるって話だ。」
青年「トンビ、イコ-ル自然だから、つまり 自然に負けるって事ですね。」
先輩「そ-ゆ-事だ。解るじゃないか。ダテに自然写真やってるんじゃないんだな。」
   にっこり微笑む青年。
先輩「自然に負けるような恋愛やってたら、そのうち絶対に人間は滅びる。これはもう
 本当に間違いない。種の保存の原理だ。」
   顔を見合わせ二人ボソボソと
友人「(小声で)種の保存だって。なんかスッゲエ話だぞこれ。お前解るか。」
青年「(小声で)なんとなくだけど、すごく解る気がする。ウンウン。」
先輩「そりゃあ急に滅びる話じゃないけど。いい加減な恋愛が何を生む。本当の恋愛を
 忘れた人間の将来が想像できるか。」
友人「わかった。エイズのことでしょう。」
先輩「当然それも有るさ。破滅への警告だよ。正にな。性道徳がブッ壊れたら世
 の中おしまいなんだよ。人が恋愛の本当の意味をを忘れちまえば当然そうなる。」
友人「性道徳ねえ・・・。道徳ですか、つまり」
   大げさな身ぶりで一括するように
先輩「そうとも。道徳だよ。おかしいかい?。道徳を馬鹿にするんじゃないぜっ。」
   ぴんと来てない友人の顔色を見て
先輩「どうした。おかしかないぜ。」
友人「なんだか先輩らしくないような気がするんですけど。先輩って、既成概念をぶ
 っ壊すっていうか・・そんな感じで・・道徳っていうの・・意外っていうか・・」
先輩「ははは。なるほど。心配ご無用。俺が言ってるのは本物の道徳の事なんだよ。
 道徳は言ってみりゃあ道標みたいなものなんだからしてな。その道標がぶっ壊
 れてたら困るんだ。グラグラぶらついてても困るってもんさ。・・だろ。つまり、
 その道標が本物かどうかって事だな。本物ならそれは大いなる道標なんだよ。
 迷わずその道を行け・・・だ。法律にしろ道徳にしろ、これは人類の知恵の賜物さ。
 それが出来た意味を知って尊重し大いに活用すればいい。」
青年「交通ル-ルのようなもんですね。」
先輩「それが人間社会ってもんだろ。信号なき交差点じゃあ困るんだよ。壊れてたら
 もっと困る。自由社会の掟かもな。本物の自由のことだよ。」
青年「本物の自由・・・」
先輩「自由の意味を履き違えたら大変だぜ。やりたい事をやりっ放しじゃ困るだろ。
 ル-ルってのは本来美しいものなんだよ。法律とか道徳とか、それが本物として
 ちゃんと機能してるかどかってことなんだ。その意味を知らずに盲目的に従ったり
 本質を忘れて運用を間違えても困るんだ。」
青年「つまり、本物談義って感じですね。」
先輩「それが本物かどうか・・・。考えなくっちゃあ。何事においてもだっ。」
友人「本物じゃなかったらどうするの。」
    大袈裟な手振りをつけて
先輩「簡単だよ。嘆く前に本物を探せ。自分が本物になれ。それが希望ってもんだ!」
友人「あっ、そうか、なるほど。」
青年「やった-っ。それですねっ。」
友人「ところで・・・本物の性道徳って・・・」
先輩「ははっ。それはだから、恋愛の本当の意味を知れば、自ずとわかる。」
青年「本物の恋愛・・ですね。」
先輩「そうさな。それを忘れちまったら大変ってことさ。壊れた標識のブラブラした
 矢印の先に何があると思う。恐ろしいぞ-。自由を履き違えた上にタガのはずれた
 今の世の中、かなり危ない所にまで来てる。」
青年「限界なんじゃないですか。ほんとに。」
先輩「そう本当だ。・・・だから、恋愛において俺が今問題にしたいのは、とりあえ
 ず実は最も基本的な事なんだ。本物の恋愛にまず必要なもの・・・つまり、本物の
 インスピレ-ションのことだ。」
友人「本物のインスピレ-ション・・・」
   と言って青年の顔を見る。
   真顔で頷いている青年。
先輩「そうとも。それはー、もう動物的な直感と言うべきものだな。本来人間が持ち合
 わせている極めて自然な本能でもあるんだ。本物の相手を見付けるためのな。」
友人「本物の相手・・・」        
   と言ってまた青年の顔を見る。
   真顔の青年。
先輩「そもそも恋愛というのは本物の相手を見つけるために有るものなんだよ。それ
 以外を恋愛と思ってたら大間違いだ。・・インスピレ-ションもファッションや
 子供の好き嫌いなんかとは訳が違う。」
青年「つまり内面的なものですよね。」
先輩「と言うより、本質的なものだな。外面も内面も全てに関わる本質って意味の。」
青年「本物の相手って、一人なですよよねえ」
先輩「そうっ。結果的にな。」
友人「結果的って…どういうこと」
先輩「ははっ。解らんか。なにも、それがこの世に一人しか居ないって言ってる訳じ
 ゃないんだよ。そんなものを捜せるもんか。一人で充分って意味さ。本物の相手は。」
友人「それにしても難しいよね。それを探すのって。」
先輩「それを捜すのは簡単だって言ってるだろ。それは本能だからと。本物のインス
 ピレーションは、本来、もともと誰にでも備わっているものなんだから。」
友人「(感心して)は-ー。」
青年「簡単だと思ったんだけどなあぁ・・・」
先輩「簡単じゃないところにこそ問題が有るんでして。つまり本物のインスピレ-ショ
 ンは大丈夫かっ?て事だ。先ずは本物かどうかを見極められて、その次にそれを如何
 に成就させられるかだ。さもなきゃ大変だって事。」
友人「大変ですかやっぱり。」
先輩「大変だとも。いいかげんな恋愛で間違えた相手と結ばれて良いこと有るわけない
 だろう。どんな結末か考えてみたまえ。」
友人「別れ。破綻。離婚ですよね」
先輩「それも有る。だがな、破綻するってえ事は必ずしも悪い事じゃあないんだぞ…。
 間違えに気づくってえ事だからなあ。悪いのは、気づかないってえ場合さ。」 
友人「深いですねえ-。」
青年「それにしても、別れるんだったら、最初から何も無い方がましですよね。」
友人「そうそう。ましましっ。」
青年「だれも別れることを前提としてなんかいないんだろうけど。」
先輩「別れることを前提としてる奴だって居るんじゃないかな。遊びってことでね。
 そんな連中は問題外さ。性病にでもエイズにでもなって勝手に滅びればいい。」
友人「なんと、ク-ルな・・・。」
先輩「遊ばれてて、それに気付かない馬鹿な女も滅びるしかないな。」
友人「ひえぇー。」
青年「遊えびと恋愛の違いって事ですね。」
先輩「そういうこと。その違いが判らんようになったらオシマイだ。ジ・エンド。
 違いさえ判ればいいんだ。先ずは。本物かどうか・・それさえ判りゃあ、いい。
 恋愛において、な」
友人「世の中・・・大丈夫でしょうか?」
先輩「相当に危ない。タガの外れた樽はブッ壊れる運命なんだ。無様なもんさ。この
 調子で行くと貞操観念が低い若者で溢れかえって医学的にも非常に危険な状況だ。
 本当に付き合ってるかどうか分からないままの曖昧カップルの多いことったら。
 とにかく本当に危ねえ。だから・・本物が見つかるまで、何もしない方がいい。」
青年「間違えてたんじゃあ、相手にも、本物の相手にも、申し訳ないですもんね。」
先輩「はっはっはっ。そのとおりだな。」
友人「とにかく、本物捜しに尽きますね。本物の相手ッ。」
先輩「なんとなくがいいからって事でとりあえず恋愛して、その相手が本物である確
 率がどれだけ有ると思う?とにかく、先ずは本物のインスピレ-ションが肝心なん
 だ。間違えたら恐いぞ。この国の将来と、人類の未来に関る大問題だ。」
友人「ドエ-ッ、来ましたねえ。」
青年「解りますよ。つまり恋愛イコ-ル種の保存なんですよね結局は。だから良い
 恋愛をしないといけないという事ですよね。」
先輩「そのとおり。人類が雄と雌に分かれちまってる以上、仕方ないことなんだ。」
 と言ってお手上げのポ-ズをとる。
友人「仕方ないって、それ先輩の嘆き?」
先輩「まあ、深いところでのな。」
友人「せ、先輩、まさかッ・・・!」
先輩「・・・バカヤロウ。何考えてんだ。俺が嘆いてるのは日本的恋愛の危うさだ。
 なんとなくがいいという風潮の危うさだ。ついでに強いて言うなら、そういう曖
 昧を美徳とする古い日本的な価値観が及ぼす様々なな場面でのこの国の将来への
 危うさなんだ。」
   暫く唖然とする二人。
先輩「まあ、そんな突っ込んだ話をするのは、今の君達には早すぎるとして、恋愛論
 についてくらい一度真剣に考えてみたまえ。」
友人「そりゃあもう考えてますよ。真剣に。ここんとこその話ばっかり。・・なあ。」
   笑って頷く青年。
友人「そういえば、先輩の言う集団的自我って、日本的自我って、どういうものなん
 ですか?今日こそ教えてくださいッ!」
青年「それと日本的恋愛との関係も・・。」
   面白そうに苦笑したあと
先輩「君達は直ぐにそうやって答を知ろうとする。問題に興味を持ってくれる事は嬉
 しいんだけど、もう大分ヒントも出してるだろう。君達を見込んでるからなんだぞ。
 それに俺だってまだ研究途中なんだから。」
   おどけて甘えるようにして
友人「もう解っちゃってるんでしょう。もう一つだけヒントほしいなあ・・・」
   大きくひとつ頷いて
先輩「考える気があるなら良いことだ。俺達みたいな歴とした日本人が日本人論を
 語ること自体に意味が有るんだからな。それに、オチコボレにだけしか見えないも
 のってえのが有るんだ。・・・まあ何にしたって、今こうして大学に居る間だけの
 特権でもあるんだから」
友人「先輩は大学院に進んだりしてその道の学者にでもなるつもりなんですか?」
   あっさりと首を横に振り
先輩「それは無い。ここじゃ俺は劣等生だからな。そんな進路はまず無いだろうし。
 学者になりたくてここにいる訳でもない。自分の為の真実の追求とでも言おうか
 な。謎が解ければそれでいいんだ。言ってみりゃあ、極めて個人的な研究なんだ。」 
   と言いながら取り出した紙にペンで大きく『曖昧』という字を書いて見せる。
青年と友人「アイマイ・・・?」
先輩「これが全てだ。しかしだ。これはあくまでもヒントでしかない。・・・そうい
 えば・・君達二人とも今、丁度、恋愛の壁にぶつかってる最中じゃなかったのか。」
友人「そう、俺なんかもうぶち当っちゃって、跳ね返されて、重症で療養中。だけど彼
はその真っ最中ですよ。羨ましいくらい凄く良い恋愛なんだけどなあ。」
先輩「だったらその壁を見るんだ。その壁の正体を見るんだ。・・・そこに答が有る。」
   黙って先輩を見つめたままの二人。すると空を見上げるようにして
先輩「今日はトンビは飛んでないかな……」
   つられて空を見上げる二人。
   青空に輪を描く二羽の鳶の姿。
                                (O・L)
〇大学歩道
   先を行く先輩とその後に続く二人。
友人「珍しい事も有るもんだなあ。いつもは 頼んだって乗せてくんないのに……。」
青年「コ-ヒ-まで奢ってくれるって言ってたぞ。・・・雨の気配は無いんだけどなあ。
 車でも買い替えたんかなあ。」
友人「(大声で)センパ-イッ。車替えたんですかっ?!」
   歩きながら振り返り
先輩「誰が替えるかっ。あの車はダメんなるまで乗るつもりなんだ。バイトして買った
 最初の車だ。お前ら馬鹿にしてるがなあ、あれだって曾ての名車なんだぞ。俺が最後
 を見取ってやると決めてるんだ。嫌だったら無理にとは言わんぞ。まあいいから今日
 は乗ってけよ。あとでキッチャテンで女の子の話でもしましょっ。」
   首を傾げながら後をついて行く二人。
〇大学駐車場
   極端に旧式のオンボロ車が側溝に片方
   の後輪を落としており惨めな姿。
   黄色の車体に木目のサイドパネルのサニーカリフォルニアである。
   その脇で唖然として立つ二人。
   おどけてとぼける先輩。
友人「なんかあるとは思ったよ・・・。」
                                  (O・L)
   車を上げるのに四苦八苦する三人。
※(挿入歌『夢追い人とだまされ屋』)
   石を置いたり、後ろを押したり。
   持ち上げてバンパ-を外してしまう友人と降りてきて適当に直す先輩。
   その横を無表情で通り過ぎる教授。
   やっとの思いで脱出する車。
   一度二度エンストして走り出す。
   歪んだバンパ-の後ろ姿遠ざかる。

   この世で一番馬鹿な者達     ・この世で一番好きな者達
   ・夢追い人とだまされ屋      ・夢追い人とだまされ屋
   ・人の行列が有ればいつでも    ・ぼろぼろの姿見れば誰でも
   ・先頭に立って死ぬ夢追い人    ・気違いと言われる夢追い人
   ・置き去りにされるだまされ屋   ・笑い物になるだまされ屋
   ・実は一番だいじな人だと     ・実は一番だいじな人だと
   ・気づく者もない         ・気づく者もない
   ・たとえ気づいたとして      ・たとえ気づいたとして
   ・君になれるか君にできるか    ・君になれるか君にできるか
   ・君にだって眠られぬ真夜中    ・君にだって眠られぬ真夜中
   ・彼らが訪ね来る時があるだろう  ・彼らが訪ね来る時があるだろう
  
  
   その上に広がる初夏の青い空。
                                 (O.L)
〇信州行き急行列車内   
   窓際の席で列車に揺られる青年。
   前にカメラを置き遠くを見ている。
   流れる緑の初夏の景色。
   なぜか思いだし笑いをする青年。
                                  (O・L)
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