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小説・この空の青さは-4

「去年の冬休みのバイトがそもそもの始まりだあ。俺が見付けたアルバイトだぜ、言うならば俺は愛のキュ-ピットだな」
「ぷっ。なんだか可愛くないキュ-ピットだなあ」
「そんなこと言っていいのか。生涯の恩人になるかもしれん御人に対して」
「ど-ゆ-ことだ?」 
「そ-ゆ-ことだ・・・」
  
 冬休みのアルバイトにと、そのとき康夫が見付けてきたのは、年末の御歳暮の出荷で忙しくなる大手デパートの配送センターの仕事であった。毎年12月になると年内一杯までの短期募集が各大学へ一斉に募集がかかり、男女学生がまるで恒例行事のように大挙押しかける。
 平屋造りの広大な倉庫のようなセンターにはベルトコンベアが張り巡らされていて、商品の種別に設けられた大きなテーブルの上で梱包作業が行われ、その流れ作業の一環が学生達の主な仕事なのだった。売場から送られて来る伝票を元に仕分けされた商品を次々梱包して流すのであるが、同じ商品が山積みになっていて、一つ一つ包装紙で包んでそれに伝票を貼り付けるのは、慣れれば気楽な単純作業にちがいない。紐を掛ける機械もテーブル毎にある。しかし一纏まりの商品が済む間もなく次の商品が伝票と共に大きな台車で運ばれて来て、その流れはまるで止まることがない。とはいえ、流れの速度はゆったりとしていて、そこはまるで学園際の催しのような雰囲気さえある。テーブルごとに時々ある休憩時間や昼食時は正に放課後のそれである。
 男女ともに学生の大半は名古屋近郊の大学であるが、公立・私立・短大・四大・一流・二流、それは様々入り混じっていて、帰省している東京の大学生も少なくない。その多くは友達連れで和気藹々やっている。真壱たちも例に違わずそれは楽しい職場であった。各テーブルは十人から二十人で、バイトリーダーやデパートの担当社員の監視もあるが、けっして厳しいものではない。男女混合の職場なので、身近に女子学生が居ない真壱たちにとって、それはまるで新鮮な学園のようだった。
 そして、彼女との出合の瞬間を、まるで昨日の事のように真壱は思い出していた。

「あんなに凄いインスピレ-ションは生まれて初めてだった・・・」
 
 或る日、一つ向こうの違うテーブルの職場に数人の女子大生が従業員に連れられて配属されて来て、その中に彼女は居た。すると、まるで分かり易いように、そのテーブルの男子学生が急に活気付くのが彼の目にも見てとれた。しかし、真壱の目は、その時一人の女子学生に何故か釘付けになり、他の物が全て色を無くしたようになって、騒音さえも小さくなった。
 女子学生は彼のテーブルには既に数人居たが、こんな事は初めてで、そもそも、そのような出合の期待を特別に持ち合わせてもいない彼だった。此処にはナンパ目的で来ている男子学生が少なくないのが現実のようで、その噂を耳にした彼は「まあ、あるだろけど、関係ないね」とばかりに全く意を解さない様子であった。

「お前は今までガールフレンド作ったことが無いってホントかよ?」
「ああ、本当さ。知ってるだろ。なにか問題でも・・?」
「いや、べつに・・。つまり、その・・」
「作ろうとした事は、まったく無いね。今まで本当に。・・てか、今もそうなんだけど」

 真壱の初恋は、実は小学六年生の時で、その相手は同じクラスの学級委員を務めるそれは可愛い女の子だった。何でも平均点の彼にとって、何でもトップの彼女は正に高値の花に違いなく、それは、ただ遠目に憧れるだけの恋心だった。しかし、恋する気持を初めて知る体験は記念すべき事には違いない。彼女の元気な姿を見るだけで毎日が楽しくて全てがラキラ輝いて見える。それが何故なのか、幼い彼にはそなんな疑問さえ浮かばなかったが、それよりも、まるで手が届かないような己の存在価値に疑問を抱く切っ掛けになった。そして、その疑問が晴れる時まで「彼女はお預けでいい」と、何時の間にか決め込むようになった。

「小学校の運動会のフォークダンスの時にペアになった子と手を繋いだのが最初で最後の女性体験だよ。本当に俺は」
「そういえば俺もそれに近いものがあるわ、ははは」
「Y.M.C.Aの彼女たちとは何もなかったのか、本当に」
「ないない。その前に振られてお仕舞い。それの繰り返しなんだって」

 康夫は前にY.M.C.Aに入っていたことがあり、何人かの女子大生と付き合ったりしていたが、手を繋いだこともないままだったようで、本気で好きになると告白するのだが、その度に振られるという始末なのだった。先輩の唱える恋愛論には真壱よりもそれはリアルに響くものがあるに違いない。まるでSFミステリーの謎を解くように先輩の話に喰いつく理由がそこにはあった。

「なんだ、お前、奥手なのかよ」
「お前が言うなっ」
「それにしても柔らかったなー。彼女の手・・。彼女は学級委員の高値の花で、俺の初恋の子なんだよそれが・・。積極的に強く握ってくる彼女にタジタジだっなあ・・。ああ、懐かしい・・。運動会の練習の度にペアになるんだ。幸せだったなー」
「あの彼女は、もしかして、その子に似てたりするのか・・?」
「え?ああ、そういえば似てるかも・・。ああ、似てるに似てるっ。そういえば」

 彼女は男を釘付けにするような特別な美人かというと必ずしもそうではないが、気軽に声を掛けられない気高さがあり、それは、喩えていうなら、ちょうどカタクリの花のようだった。下を向く薄紅色の小さくて繊細な花弁と、薄緑の葉を添えて細くて小さいながらに凛とした立ち姿が可憐な花だ。またそれは、春の野の片隅で人知れず咲くスミレの花に、秋に咲く野菊の花にも重なって、それはスズランにもなった。花壇や花屋にあるどんな花にも美しさを感じられない彼なのだった。
 そういえば彼は芸能人などにも特別に憧れることはなく、彼の部屋に貼ってあるポスターは、唯一スティーブ・マックィーンだった。「栄光のル・マン」のワンカットのそれは、確かに完成した大人の男の存在感に満ちていて、先ず何よりもそれがその時の彼の憧れに他ならなかった。
 そんな彼は、確かに誰よりも彼女の持つ美しさの本質を捉えているに違いなかった。

「お前は子供じゃないし、彼女も・・期は熟したというところだな」
「完璧じゃないけど、そういうことかも」

 己の価値を己で見付ける。それが真壱の大学進学の間違いなく一番の理由であった。図らずして留年したことで、逆にそれが彼に反動的な力を与え、何よりも、朱に混じらない心の純白が際立つことになった。彼女を見詰める彼の視線には、そんな心の純粋が確かに込められていた。
 その純粋は、特別だった。自然写真に没頭して花や昆虫の小さな自然に間近に触れるうちに、それは知らぬ間に自ずと磨かれて行ったのかもしれない。そこで彼が触れたものは何か・・。先ず第一に、それは見詰めれば見詰めるほどに自分のそれとは比べ物にならない確かな存在感だった。まるで「生きる意味」の答を知っているかのように見えて、真壱は無意識にその答を彼らに何時も問いかけていた。そして次に触れたのは、そんな生命の神秘に関わって間違いなく存在している自然の法則であった。それが何かは俄かに解らないものの、それに触れることで、彼の中に有る潜在的な自然が呼び起こされて、その純粋が際立つことになるのだろう。それは何時しか、彼の眼に、物事の全てに対して真実や本質を求める精神が宿ることになる。そして先輩の話はそれに丁度リンクしていた。
 そう言う意味で彼のインスピレーションは本物だった。その視線は純粋だった。他でもなくそれは「自然」であった。
 そして、驚くのは、そんな彼の視線を感じた彼女の反応だった。隣のテーブルとはいえ、距離があり、人の陰になったりもして見え難いのだが、人知れず見惚れるには逆に都合が良いのかもしれない。しかし彼女は当然ながら、間もなくして真壱のそんな様子に気付くのだった。初めて視線が合わさったその時、彼の目に何かが飛び込んで来た。それが何なのか直ぐには分からなかったが、瞬時に何かが真壱の中に奥深く進入する感覚がその時あった。二人の視線は合わさったまま暫く動かなかった。ほんの数秒がまるで何分かのようだった。彼のそれも同じように瞬時に彼女の奥の何処かに届いた。何だか空洞が満たされるようなあの感覚だ。
 彼女は何故か驚きもせず、まるで何かを受け止めたようにして下を向き、そしてゆっくりと視線を外した。真壱はそれを見届けた。
 彼女とはグループが違うので、休憩時間や昼休みも違う。しかし、彼の眼はどうしてもつい彼女へと。彼女もそれに気付いて、その度に視線が合うのだが、それは、横に居る康夫の目にもあからさまだった。

「俺じゃないんだよな悔しいけど。そういえばお前けっこう二枚目だもんな」
「そうでもないよ。いや、そういう問題じゃない」
「お前は何か特別な色目でも使ってたんか、一生懸命」
「何てえこと言うんだよ。そんなことじゃない。お前にはわかんないって。俺だって初めての事なんだから」
「彼女が色目つかったんだ」
「ばか、そんなんじゃない。だけど、どっちかと言えば同時なんだなこれが・・。何かがシックリと来ちゃったんだ。そうとしか言い様がない。・・これはきっと、ずっと待っていた何かなんだ」
「待ってたのかよ・・」
「いや、待ってたのは、つまり・・・」
「つまり、何だよ」
「俺よりもイケメンで格好のいい男なら、他にいっぱいいるんだぞ」
「俺とかね」
「それに、学校とか何も知らないままで。それが素晴らしいじゃないか。俺の中にある物を見たのさ。他には無い何かだ。お互いの本質が自然に引き合ったんだ。・・もう何もしないでいいような気がしちゃって・・」
「だから、本当に、何もしなかった」  
「そうだったなあ・・。グル-プが違うとどうしてもなあ。昼休みなんかも時間がずれてるし。なんか、何んでも集団単位になっちゃうんだもんなあ。ミョ-にまとまっちゃって、ミョ-に何か枠みたいな物ができちゃった様で・・」
「集団主義というやつだ。このまえ先輩が言ってた。集団主義からの脱却なくしては日本人の真の自立は無いって」
「難しいこと覚えてんだなあ。それ、試験に出るの?」
「試験に出ることだけ覚えてればいいという今の大学教育にこそ問題があるって」   
「わかったわかった。先輩の話は確かに面白いし、俺だって興味ある。だけど今日のところは止めにしよう」

  全てがカルチャーショックのような先輩の話は、真壱よりも康夫の柔らかい脳と空っぽの引出にそれはダイレクトに入って来ていて、時間さえあれば先輩に付き纏うようにして質問の嵐を投げかけるのであった。しかし、その理解力は真壱の方が長けていて、内に秘められていた本物を希求する精神を刺激して止まないのだった。オチコボレの二人にとって、先輩の講義(?)は目から鱗の連続だった。

「とにかく距離があったことは確かだ。だけど接近するチャンスも有ったよな」
「有ったさ。接近どころか接触だよ。完全なる第二種接近遭遇だ」
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