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この空の青さは⑨

〇同高原内駐車場
   疎らな車のなかで一際目立つ一台の緑色の年季の入った四輪駆動車。
   車のボディに白い字で『木原和人』『自然写真』のくっきりとしたロゴ。 
   『Profetional Nature Photographing』のロゴも。
   その傍で緊張した微笑みで佇む青年。
   恐る恐る近づいて、車を眺めながら、ゆっくりと一回りした後、立ち止まっ
   てまじまじと車を見つめる。(荷台にギッシリと機材が見える)
   すると後ろから一人の男が近づいて来て、青年に動じることもなくそのまま
   運転席のドアに手を伸ばす。
   突然の事に驚く間も無く
青年「あっ、あのっ、木原さん、木原和人さんですね。」
   キ-をさしてドアを開けたところでおもむろに振り向き、ニッコリとする。
   日焼けぎみのその屈託のない笑顔のスマ-トな中年男は正しく雑誌の本人。
   力強く笑顔を返して一度ペコリとして青年が何か言おうとすると
木原「今ちょうど良いねえ、レンゲツツジ。どう、良い写真撮れた?。」
   と屈託なく言い放って車に乗り込み、
ドアを閉めてエンジンをかけるが、すぐに窓をいっぱいに開けて顔を出す。
   頷いたままの青年ほっとして微笑み
青年「お会いできて嬉しいです。先生の凄い ファンなんです。ほんとラッキ-です。
 そうだ、ちょっと待ってくださいね。」
   と言ってリュックを下ろし、その中から先程の雑誌とペンを取り出して
青年「(ペ-ジを広げて)ここに、え-と ここんとこにサインをお願いします。」
   するとおどけたように驚いた顔をして
木原「お安い御用だよ。」
   と言ってニッコリしてそれを受け取り
木原「こりゃまいったまいった。嬉しいよ。ウレシイウレシイウレシイヨット。」
   と言いながらサインをする。
   嬉しそうに見つめる青年。
   終わってそれを受け取りながら
青年「この前の写真誌の先生の対談のコ-ナ-面白かったです。評論家とトコトンや
 り合っちゃってて、流石だと思いました。」
   顔色を変えてエンジンを止める木原。
木原「(苦めに笑って)ああ、あれ見たの。ははは。実際はあんなもんじゃないんだ
 よ。もっと 凄くやってんだ。ほとんど喧嘩なんだ。」
青年「(少し驚いた様に)へえ-、
 そうなんですか。それは益々面白いですねえ。一匹狼の異名は本当なんですね。」
   と言うと、一瞬力強い微笑を見せて
木原「まあ、評論家にも色々あるからなあ。しょせん写真の目利きなんてまだ居ない
 様な世界なんだし。普段から真剣な写真論議なんてしちゃいないのがオチさ。周り
 を伺ってからじゃないと何一つ物を言えない人間ばかりさ。評論も糞もない。曖昧な
 もんだよ。俺は曖昧なものが一番嫌いなんだ。それでぶつかった。マジな物や出すぎ
 た物は好きじゃないらしい。好かれてナンボって言うんだったら、そりゃ違うってえ
 の。俺は基本的に御機嫌取りはしてないから。それがプロフェョナルッてもんだから。
 まず作品を観てくれよって言ってるんだ。それがどうなのか言ってくれと。」
   落ち着いて一気に喋り捲る彼の雰囲気に少し圧倒された様子のあと
青年「(微笑んで)木原和人は本物ですね」
木原「ハハハ、確かに俺は本物の写真を撮ろうとしてる。そういう意味で本物かもね。
 写真そのもので勝負したいんだ。だから、それ以外の事には敢えて気を使わない。
 写真 が良いか悪いか、それが全てって考え方なんだ。だから俺はアウトロ-なんだ。」
青年「そういうのを本物と言うんだと思います。本物には本物が寄って来るんです・・・。
 近くにそういう人居るんですよね。」
木原「ああ居るとも。多くはないがね。だからやってられるんじゃないか。」
青年「(安心した様に)そうですねっ。」
    微笑む木原。
青年「先生の言う本物の写真って、つまり、オリジナリティっていうことですよね。」
木原「そのとおりさ。それが俺の存在価値ってえもんだからな。」
青年「オリジナリティの追求ですね。」
木原「追求、追求、追求しすぎて嫌われ者。」
青年「嫌われ者・・ですか。・・謙遜ですよね」
木原「まあね。だけど今はいい加減が好かれる時代さ。嫌われてナンボって思うよね」
青年「先生は、本当に本物ですね。」
木原「(苦笑いして)君は学生なのかい?」
青年「そうです。大学の三年。」
木原「カメラ雑誌のコンテストなんかには投稿したりしてるんかい?」
青年「ええ、以前はけっこう。・・だけどいつも入選どまりで、飽きちゃって。そ
 れに審査員、好きなが人いなくって。」
木原「ハハッ、御免。俺、審査員やってないからな。結局は好みの問題だもんな。
 それに、べつにプロを発掘する場所という訳でもないんだし、気楽な世界だ。
 入選クラスに本物 が隠れてるのが落ちさ。君がプロ志望で本物志向なら全然問
 題にしなくていいよ。そのうちドカ-ンって凄い個展を開くといい。」
青年「そのつもりです。まだ先ですが。」
木原「そうっ。楽しみにしてるよ。」
   と言って眼を見つめてニッコリと頷き、キ-を回してエンジンをかける。
青年「どうも。今日はこんなに一杯お話ができて光栄です。どうか頑張って下さい」
木原「いや、こちらこそ。」
   と言って車をバックさせて切り返す。
   車から離れた青年に少し大声で
木原「そういえば僕の新しい写真集がもうすぐ出るから。よろしくねっ。」
   と言って手をサッと挙げて発車する。
   思い切りの笑顔で手を挙げ頷く青年。
   その肩越しに遠ざかる緑の四駆。
   遠くで高く挙げた手を爽やかに振る木原。
   見えなくなるまで立ち尽くす青年。
                                (O・L)
〇同高原スキ-場
   緑一色の高原の斜面に大きく横たわって、何やら撮影中の青年の姿。
   カメラを地面すれすれにセットして、腰のウエストポ-チからピンセットを
   取り出し何やら細かい作業。細かい草の葉を摘まんで取り除いたりする。
   小さなスズランの花の撮影である。
   レンズの前のその白い花の群生。
   手先が伸びて形を整えたり、レフ板の角度やピントを調整したりする。
   構図を決めてシャッタ-を押す青年。
   すると画面が黒いフィルム面となり、小さく風に震えるスズランの姿がシャ
   ッタ-音とともに焼き付けられ、何度も繰り返し横並びに送られて行く。
   その中に現れる彼女の姿。
   とうとう彼女ばかりになる画面。
   地面に頬づえをつき花を見つめる青年。

 ※(挿入歌『糸杉のある風景』流れる)
                                (O・L)
〇幻想(同高原スキ-場・夏)
   辺り一面いっぱいに群生した黄色い夏 の花の中で蝶をカメラで追う青年。
   一つの花にとまった蝶に近づいてアップにするとサッと飛び去ってしまう。
   するとその向こうに彼女の姿が。
   麦わら帽子で微笑む白い夏服姿の彼女。 
   近づくと蝶の様に悪戯っぽく逃げる。
   花畑の中を微笑みながらスロ-モ-ションで走る彼女の様々なモンタ-ジュ。
   ブ-ケを作ってそれを青年に手渡すがまた悪戯っぽく微笑み逃げ去る彼女。
   湖の上で独りでボ-トを漕いで楽しげに逃げる彼女と、それを追う青年。
   それぞれに仰向けに寝そべって目をった二人のボ-トが流れて横に並ぶ。

 ・ゆるやかに川は流れて  
 ・糸杉は遠い山より高く      ・ふと眠り込むときの夢は
  ・鮮やかに辺りいちめん野の花    ・いつもの糸杉のある風景
 ・君は何かを見つけて         ・夕焼けの雲は流れて
 ・僕に笑顔をみせる         ・糸杉に旅する風が宿る
 ・みずぐるま音は流れて       ・透き通るたそがれどきの笛の音
  ・糸杉の梢の影のあたり      ・君はいつのまにかもう
 ・きらきらと輝くものは稲穂か    ・僕の中に住んでる
 ・君は飽きることもなく       ・旅の重さを抱いて
  ・鳥と話をしてる         ・ふと眠り込むときの夢は
 ・旅の重さを抱いて        ・いつもの糸杉のある風景
   


   最後は高原の大きな木の下で並んで腰を下ろし遠くを見つめる二人の姿。
                             (WIPE)
〇青年の部屋(夜)
   机に向かって何やら書き物をしている青年の後ろ姿。
   傍らの屑入れの周りに丸められた紙屑が幾つか散らかっている。
   すると無造作に投げられた紙屑がまた一つポンと屑入れを外れて転がる。
   (O・L)で同じように何度も転がる丸められた白い紙屑。
   何やら書き終えて、それを折り畳んで小さな封筒に入れる青年の手元。
   ライトに透かして見る彼の撮った白いスズランの花の一枚のポジ写真。
   それを丁寧にゆっくりと封筒に入てれ閉じる。
                                 (O・L)
〇街角の広場(例の場所・午後)
   いつもの女子大生の流れと、今日は少し離れた柱の陰で立って待つ青年。
   ズボンのポケットから封筒を出す練習をしてみるその青年の手元。
   現れる彼女。一度こちらを振り向き、俯きぎみにそのまま流れて行く。
   柱の陰から飛び出す青年。通行人とぶつかり少し遅れをとってしまい、急い
   で地下鉄の入り口を下りて行く。
                                 (O・L)
 ※(挿入歌『坂道』が流れ始める)

〇地下鉄のりば(無音)
   慌てて走って来た青年、またしても人とぶつかりこんどはカバンを落として
   しまい、封筒が無いことに気づく。
   雑踏の足元に転がっている白い封筒。
   それを拾ってキョロキョロする青年。
                                 (O・L)
〇地下鉄ホ-ム      
   到着した電車に乗り込む彼女の姿を見つけて慌てて駆けつける青年。

〇同車内
   吊革を掴んでホ-ム向きの彼女、窓越しに彼が前を通り隣から乗り込むのを
   目撃してハッとして緊張する。
   人混みの間に見える彼女の横顔。  
   すると突然こちらの方を向く彼女。
   はにかんだように悪戯っぽくツンとして前を向き直すが、すぐに俯いて恥ず
   かしそうになる彼女。
   惚け顔の青年。
                                  (O・L) 
〇同地下通路
   緊張気味に前を歩く彼女にどんどん近づづいていく青年。
   横に並んだところで声をかける。
   すると立ち止まる彼女。
   一言言ってすかさず封筒を差し出すと、素直に受け取る彼女。   
   何やら言い残して、早々に退散する青年。
   青年の肩越しにそのまま歩いて行く彼女の神妙な後姿。
                                 (O・L)
〇同車内
   走る電車の黒いガラス窓に映る青年の緊張した満足顔。
 
  ・なんとなく息切れがして      ・ここは坂道
  ・額に汗がにじむむから       ・足跡がこれほど有って
  ・ここは坂道            ・道しるべひとつ無いのは
  ・誰かが登り坂と言い        ・誰ひとりこの坂道の
   ・誰かが下り坂と言う        ・果てを知らないからでしょう
  ・僕にはどちらか分からない     ・この坂道を行く人の
  ・僕には分からない        ・若さはいったい何故でしょう
  ・寄りかかる木の杖ひとつ      ・ここは坂道
  ・手に持ちたいと思うから      ・誰かが登り坂と言い
  ・ここは坂道             ・誰かが下り坂と言う
  ・足跡がたくさん有るのは      ・僕にはどちらか分からない
  ・同じことを知った人が       ・僕には分からない
  ・ずいぶんとこの坂道を       ・ここは坂道
  ・通り過ぎたからでしょう
   

   最後は駅を走り去る電車の姿。
                               (WIPE)
〇大学の広場
   俯瞰の後、近づいて捉えるベンチの二人。
友人「そうか・・・、とうとうやったか。」
   頭に手を組み無言で遠くを見る青年。
友人「それにしてもまた一気に勝負に出たもんだなあ・・・。来週の日曜日か。
 植物園とはお前らしいな。・・来るかなあ・・彼女。」
青年「(目を瞑って)・・・。」
友人「つまりデ-トに誘ったてわけだ・・。」
青年「そうだよ。始まることが目的だから。俺は自然のインスピレ-ションを信じ
 たいんだ。本当に自然なアプロ-チなんだ。」
友人「詩を書いたってマジかよ。モロにマジだな」
青年「そう、モロマジ。ははは。いいんだよ自然なんだから。ほんと自然。自然自然。
 なんか自然に書いちゃって。というか、書けちゃって。」
友人「来なかったらどうするんだ。」
青年「(きっぱりと)終わりだ。」
友人「都合わるいって事もあるんと違う?」
青年「住所と電話番号書いてあるから。音信不通でスッポカシだったら最悪さ。とにか
 く来てくれさえすればそれでいいんだ。」
友人「来なかったら終わりなのか、本当に。」
青年「本当にだ。そう書いたから。それまでさ。つまり、ジ、エンド。」
友人「それでいいのか。」
青年「しかたないさ。俺の本当の相手じゃあないってことになるんだ。」
友人「正念場って事だな。お前も、彼女も。根性要るよな、まったくもって。そんじ
 ょそこらの自我なんかじゃやってらんないよな・・。自我。あっ。そうかっ!」
   急に眼が覚めたような顔で立ち上がり
 「先輩の言う本物の自我って。本物の恋愛って。・・そうか・・そうかっ!」
   おもわず顔を見合わす二人。
 「この二つは切っても切り離せないもんだぜ。」
   勢い良く頷く青年。
   まじまじと顔を眺め直して。
 「お前-。いやあいやあ。よくやってるよほんと・・。それにしても大丈夫?」
青年「大丈夫。無理してないし。自然自然。あとは風まかせ。ほんと、そんな感じ。」
友人「あの後遺症は克服できたんだな。」
青年「これでいいんだって思ったのさ。このやり方が、俺のやり方なんだ、って。」
友人「それにしても、彼女に本物を求めるって酷なんじゃあ・・・?」
青年「・・かもしれないね。だけど、ここはひとつ頑張ってほしいんだ、とりあえず。
 お互いが本物になるチャンスなのさ、きっと。そんな無理な事だとも思えなくて。」
友人「来なかったら本当にオシマイ?」
青年「そうさ。本物になれないって事さ。」
友人「お前ってけっこう男らしいんだなあ。男に二言は無いってことだな。」
青年「遊びでやってるんじゃないから。」
友人「あ-、なんだか、もったいないなあ・・・。」
すると、振り向き苦笑いをして
青年「おいおい、ちょっと待ってくれって。俺は彼女になんとしても来てもらいたいん
 だぞ。祈る思いなんだ。へんなことばっかり言ってくれるなよ。信じてだから。」
友人「御免御免、いざとなったら心配になっちゃって、なんだか。先輩の悲観論が
 ここにきてグ-ッとリアリティ-で迫って来ちゃって。彼女大丈夫かなあって・・。
 彼女、本当に本物なのかなあって・・・」
青年「これは俺が考えた自然のやり方。成り行きなんだ。俺の中に有る自然に従った
 最良の方法のつもりなんだ。だから、本当の相手なら解ってくれると決めてもいい
 と思うんだ。・・本物になれる、本物が始まる、最後のチャンスなのさ。」
友人「なるほどな。お前は本当に頑張ったと 思うよ。あとは彼女に頑張ってもらい
 たい よ本当に。ほんと祈っちゃうよ俺。」
青年「神さま、自然さま、彼女さま、だ。」
   と言って大きく天を仰ぐ。
友人「そういえば、手紙で返事が来るって事も充分あり得るよなあ。・・・『お気持
 は嬉しいんですが・・』とか『今つき合ってる人が居るんです・・』とか、断ると
 したら 絶好のチャンスだもんな。」
青年「なんでそう悲観的な事ばっか言うの。彼女は本物だって言ったの、お前だぜ。」
友人「そうそう、良い返事が来るかもな。」
青年「だろ、楽観論で行ってくれよ。」
友人「そういえばそうだった。そうそう、そう・・・『じつは私もあなたのことが
 前からずっと好きだったの。最初はじめて会ったその日から。ほんとうなの。なの
 にあの冬の日、どうして別れちゃったのかしら。馬鹿だったわ。意気地無しだった
 の私って。 ・・許してくださるのね。・・あなたはなんて心の深い人なのかしら。
 私のこと一目見て分かってくださったのね。それが本当に嬉しいの。私も同じよ。
 一目であなたのことが分かるの。』『日曜日が楽しみですわ。だってあなたのこと
 がもっともっと知りたいし。それに、私のことも。なにか素晴らしい事が始まる様
 な気がするの。今度こそ本当よ。だって・・幸せになるためだもの。』・・・」   
   いつの間にか女言葉になって喋っている自分を関心したような呆れ顔で眺める
   青年に気づき、我に返ってブルブルと顔を震り
友人「おっと、どうしたこった、変だな。」
青年「(笑って)それにしても極端なんだからお前って奴は。呆れるよ全く。・・・
 とにかく、そういうのはマズ来ないだろう。」
友人「そうかなあ、彼女の気持になってみたつもりだったんだけどなあ。けっこう。」
青年「生き霊でも乗り移ったってえのか。だったらスッゲエけどな。それにしてもそう
 いう手紙は来る訳がない。何も言わずに来てくれればいいんだ。そうすれば今度こそ
 自然に始まる。・・・それでいいんだ。」
   と言って真顔になり空を見る。
友人「それにしても、おっかないなあ。どうなることやら。来週の日曜かあ、もうすぐ
 だなあ。・・・来月にすればよかったのに。」
青年「そうもいかんさ。夏休みの前になんとかしたいんだ。それに限界なんだよ。雨天
 決行。中央広場の噴水の前。午後一時。」
友人「ひぇ-。雨天順延にすれば良かったのに。・・。一時からどれだけ待つ?」
青年「一時間。二時を過ぎたら諦めるって、そう書いたから。」       
友人「おっかない事になったもんだ。」
青年「そうでもしないと切りがないから。」
友人「(閃いたように)そうだ、今度の水曜、彼女の様子、見てみようか。」  
青年「それはやめよう。野暮ってもんだ。」
友人「そうだな。それ自体おっかない。」
   すると呆れて笑うようにして
青年「おっかないおっかないって、お前、俺をビビらせる気なのか。言っとくが俺は
 全然おっかなくなんかないだぞ。楽しみなんだ。日曜日が。信じてるからだなあ。」
友人「信じる者は救われる。・・ああ、神様、仏様、お奉行様。どうかお助けを・・」
   と言って手を合わせて空を見る。
   それを見て
青年「お前は百姓か。俺が信じるのは自然なんだ。彼女の中に有る自然だ。・・・
 だから、自然さまさま、彼女さまさまだっ。」
   と言って腕を組んで空を見る。
   青空に舞う二羽の鳶の姿。
                                 (WIPE)
〇植物園
   花壇と噴水の有る俯瞰の風景。
   画面いっぱいに映る花壇の花ばな。 
   花越しの向こうにとらえるベンチの青年。
   サマ-ジャケットとカラ-ジ-ンズで少しめかしこんだ出で立ちで、独りポ
   ツンと、両膝に肘で身を置く形で佇んでいる。
   肩越しの賑わう休日の植物園の風景。
   青年の前を通り過ぎるアベックや家族。
   おもむろに腕時計を見る青年。
   時計の時刻・12時四40分。  
              (O・L)
〇回想  
   学食で話し込む三人。
友人「彼は報われるんでしょうか・・先輩。」
先輩「確率でいえば千分の一ってとこだ。」
友人「ひえ-っ。そんなんか。・・もうだめ。」
先輩「ゼロとは言ってないじゃないか。世の中の価値観が変わりでもせん限り本物を
 掴むんだったらそのくらいのリスクは当り前なんだよ。だいたい、本気に好きかど
 うかを確認し合って始まる恋愛なんか有り得んぞと、あれほど言ったのに、彼はそ
 の道をひたすらまっとうしようとしてるんだ。たいしたもんじゃないか。なあっ。」
青年「どうしてそれがそんなに難しい事なのかが、やっぱり解んないんですよ。これ以
 上自然な事は無いと思うんですが。」
先輩「君はもしかしたら本物かもしれんな、もう充分に。頼もしい限りだ。・・だが、
 千分の一って確率は、嘘じゃないんだぜ。 シ-ラカンスにならんようにせんとな。」
友人「・・シ-ラカンス?」
青年「それは御免ですね。だって本物の恋愛がどういうものか解ったんだから。彼女と
 出会って初めてそれが解ったんだから。彼女を好きになるってどういうことか・・・
 本当に好きになるってどういうことか、それが解ったんだから。・・俺は御免です。」
                                (白くF・O)
(F・I)
〇(幻想)初夏の高原
   一本の大きな木の下に腰を下ろし佇む青年と彼女。
   幸せそうに、ただ遠くを見つめている。
 ※(『糸杉のある風景』のインストルメンタル)
青年の声「君は解るだろうか。一目見た時 君の全てが僕に分かる気がした意味が」
 「君は解るだろうか。たとえ君がどんな運命の持主だとしても、僕はそれを受け入
 れられるれると、今すぐにでも言うことができる意味が」
 「君は解るだろうか。君が幸せかどうかということを、僕の人生の最良の道標にす
 るんだと、今すぐにでも言うことができる意味が」
 「君は解るだろうか。君の周りにこそ本当の自分が有るんじゃないかと、素直に
 告白できる意味が」
 「君は解るだろうか。君を見ると、そんな想いが僕のなかで自然に溢れる意味が」
 「君は解るだろうか。それが真実だということを、それがどういうことなのかを」
 「僕には分かるんだ。このインスピレ-ションが、けっして無意味でないことが」
 「僕には分かるんだだ。それがどういうことなのか」
 「君にも分かるだろうか。それがどういうことなのか」            
                              白く(F・O)
 (F・I)
〇回想)学食の三人・つづき      
   腕組みをして、無言のまま青年の眼をじっと異状なまでに見つめる先輩。 
   異様な視線をキョロキョロ辿る友人。
   視線に負けておどけ顔を作る青年。そのまま真剣な表情で
先輩「君は何者なんだ。・・・。」
青年「何者って、・・べつに。・・先輩こそ。」
   よく見ると先輩の瞳がなにか潤んでいる様に見える。
先輩「君は報われるべきだよ。最低限度、彼女には応じる義務がある。君は本物さ」
   思わず声が詰るが直ぐに立て直して
 「だけど完璧じゃないよ。だから彼女にここはひとつ頑張ってもらわんとな。」
友人「どういうこと・・?」
先輩「(意味あり気に)・・・・・・。」   
友人「なんですか。どういう意味ですか?・・やっぱり、自我のことですね。」
青年「いいんです。完璧なんて、そんな、まさか。本物の自我ならともかく、完璧な
 自我なんて。誰が、まさか。」 
友人「そりゃそうだ。だったらこんな苦労してないもんね。もしかして。」
青年「そうそう、してないしてない。」
友人「こんな彷徨ってなんかないって。」
   パチンと大袈裟に指を鳴らして
先輩「そうさっ。つまり、それが青春なんだよっ。」
   一瞬静粛になり
友人「プ-ッ。なんてことをっ。これまた・・・」
先輩「可笑しかないぜ。ちっとも。本物の自我の探究こそが青春ってシロモンの真髄
 なんだよつまり。・・そんでもって、その線上に恋愛ってえのが有るってわけさ。」
   神妙な顔で頷く二人。
先輩「本物の恋愛は、自我と自我の触れ合いでもあるんだからして。裸の自我のな」
友人「裸の自我・・」
先輩「そう、裸の自我。素っ裸のなっ。」
友人「だから恥ずかしいのか・・」
先輩「かもな。・・だけどキンタマ放り出すって事じゃないんだぞ。はははっ。」
友人「分かってますよ。そんな・・。裸と裸の触れ合いが恋愛だなんて、そんな。」
青年「(笑って頷き)裸の意味が違う。それに、反則だ。」
先輩「反則反則。そりぁ本当の裸じゃない。恥知らずってもんさ。本物の自我は見ら
 れて恥ずかしいものじゃない筈なんだ。だいたい隠すべき物ではない。余計な物を
 纏わない素っ裸の自我こそが、青春なのさ。」
   さらに神妙に頷く二人。
先輩「自我の本質が試されるのさ。その時。つまり正にその時な。だから、頑張って
 もらわんとなって・・・。お互いの本物の自我のためにだよ。」
   それぞれに大きく頷く二人
青年「本物になりたいんです。」
友人「えらいっ。」
先輩「そもそも恋愛の完成は人間の自我の完成において窮めて重要なものでもあるん
 だからして。・・・残念ながら。」
友人「やっぱり残念な訳ですか・・」
先輩「まあな。とにかくだ、見られて恥ずかしい自我を隠し合う様な恋愛だけはするも
 んじゃないって事さ。曖昧な自我と曖昧な自我を繋ぐものは結局曖昧な糸でしかない
 んだ。いつ切れるか分からん様な、そりゃあもう細-い細-い糸さ。切れたって、そ
 の 事にさえ気づかんような、そんな糸で繋がれて歩いてて幸せだったら気味が悪い
 ぜ。・・いつ切れてもいいような、切れなきゃ儲け物っていうような、頼りない卑怯
 な、・・そんな恋愛をするべきではないっ。俺は、それを恋愛とは言わないっ。」
   さらに思い切り大き頷く二人。
   芝居がかった身振りで
先輩「(大袈裟に)ああ美しき青春よ。今こそ裸の自我をさらけ出そうじゃないかっ!」                                             (O・L) 
〇植物園
   真正直なたたずまいのベンチの青年。
   ぽつんと独りで前を見ている。
   まさに裸の自我という感じである。   
                                (O・L)
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Author:sagapo5614
写真集「四季の肖像」の作者です。
プロフィルや作品はこちらのHPをご参照ください。http://mfnpf.jp/
下記リンク【四季の肖像】からどうぞ

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