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22 白い幻想

「おまえ、何か気付いたこ事ないか?彼女の様子・・」
「ああ、それなんだけど・・、俺、あんな事言われちゃったし、もう怖くて顔もまともに見れないんだよな、それが」

 私達は、さすがに暫くの間その現場には近付くことが出来ないでいた。「もう来て欲しくないの」と怒った顔をしてそれを手にしてその場で封筒を無造作に開けて読み始めたのだ。確かに彼女はまともな心理状態と様態ではない。それは取り返しがつかない悪態でもあった。いくら私に理解力と包容力があるとしたって、この胸と懐に彼女を包むことなど出来そうにない。私はその時、若くて青くて、それほど強い自我の力を持ち合わせなどもしてはいなかった。地位も名誉もない二流大学を卒業した当てもない糸の切れた就職素浪人のようなものである。夢を語るにも、それ自体が五里霧中というのが実際だ。
 前田真三と木原和人という目標、ビジネスモデルが有って、目指す山の頂が見えているのだが、そこへ辿り着く道程がどんなものになるのか、聊か不安で心許無い。本物捜しの旅は心躍るものに違いないのだが、彼女をその「夢の旅路」に誘うにも、逞しく手を取って隣の空席に引き込むような力は残念ながら持ち合わせてはいなかった。
 「道草」の如く、真実を背負い、憧れを守り袋に行く旅は、「坂道」にちがいなく、「空回りの日々」になるかも知れない。・・「日本人に生まれて損か得か」・・私は最初からけっして得な人間の部類にはなれないだろうことを知っていた。

 もしかしたら、恋愛は、男女共にとって、自我の完成における最も原初的な必須科目なのであり、これは正にその絶好の機会だったのかもしれない。曖昧に済ませば自我の完成は望むべくもなく、大勢の若者がその試練に挫折して、科目を不履行のままにする。「僕らの四季」のカモシカたちのように。
 そしてそれを克服することは私だけの問題ではないだろう。彼女にもそれは過酷な話に違いない。聊か大袈裟な言い方かもしれないが、彼女がこの人生の重大局面ともいえる大きな山場を越えられるかどうか。私にはそれが不安なのだった。私が彼女に手を差し伸べるとしても、力持ちではないし、たとえ力が有ったとしても、強引に引っ張り上げるのは彼女自身にとって果たして有益な事なのか、今想っても疑問が残る。
 失恋の後遺症とは別に、私の中に有る底知れぬ影のような社会への不安というものが、漠然ながらも、青春の光を時に遮り、弾ける力を時に削いでいた。
 しかしながら、とにかくその時の私は、それなりに自分自身の力のかぎりで精一杯の事をしようとしていたというのは確かであった。私は彼女の力を少しばかり期待していた。

 一週間ほど経ってから、やはり彼女の様子が気になったので、私達は再びセントラルパークのその書店を訪れてみた。とはいっても、中に入る事など出来ず、四つ角にある書店を遠巻きに何度も通り過ぎ、次第に距離を縮めて行った。地理的に外から店内の様子が手に取るように観察できて、作戦の建て直しには好都合であった。

 それは水曜日のことだった。彼女は何もなかったかのように定位置でもあるレジに立っていた。様子はというと、本当に何事もなかったかのようにあくまでも清ました様子と面持ちである。手紙の返事も電話もかかって来ていない。返事はもうした、ということだろうか。全てが終わって、私達も諦めたという事で平和になっているということか・・。
 私には悲観的な観測が頭を占めていたのだが、彼女の佇まいと表情から今の気持や状況をなんとか読み取れないかと、遠目に見ているうちに、何故か一筋の光明が差し込むのであった。
 そして、それは彼女の服装から出る光でもあった。それは眩しいほどに純白のワンピースだった。それは今までに一度も見た事のない彼女のいでたちで、とにかく何だか周りから浮いたように眩しいほどに白い。そして見違えるほどに美しい。眩しいのは気のせいだろうか・・。いや、違う。その白い彼女の服装を見て私は或る閃きを得るのであった。もしかしたら・・あれは・・。その白い服装には彼女のメッセージが秘められているのではないか・・。思えば、それは確かに今まで見た覚えがない衣装なのである。つまり、そのメッセージとは・・。

「何か気付いたことがあるのか・・お前には」
「彼女の服装を見ろ・・」
「見ているよ」
「何色に見える・・?」
「白色だ。真っ白・・上から下まで」
「そう、真っ白・・それなんだ・・」
「それがどうした・・?」
「わからんかなー・・」
「だから何がなんだよ。わかんねーよっ」
「俺のあのプレゼントの中身、お前知ってるだろ・・」
「ああ、花の写真だったな・・たしか・・スズランとか・・」
「何か気付かないか?その辺で・・」
「てか、おまえ前の時も手紙に写真入れたんだったよな・・確かその時は・・」
「ああ、あの時は野菊だったよ。ノコンギク。今より完成度は低かったけどな」
「俺の見立てたイメージなんだよな。これはやっぱり」
「そういえば、そんな感じだったなー。まるでポエムだな。俺はあの時ほんとに上手く行くと思ったんだけど・・。現実は残酷なもんだと思い知ったわ。それにしてもいまだに信じられんよ俺はやっぱり・・」
「だからその話はもう止めてくれ。原因は解ったんじゃないのかよ。俺の考えが甘かったんだけどそりゃ」」
「それにしても、今度はスズランとは、まあピッタリという感じだなこれは確かに」
「だから・・何か気付かないかな・・白い服装に・・」
「白いといえば、昨日も彼女白かったな、そういえば。・・あ、この前もだわ」
「おまえ、昨日もここへ来てたのかよ」
「ああ、気になるから・・つい」
「見付かなかっただろうな」
「それは大丈夫。怖くて近づけないからもう」
「そうか・・。で、何か気付かないかな、つまり、あの白い服装に・・白い・・」
「ええ・・?・・・あ・・そうかっ・・そうだっ・・白色って・・あっ、スズラン・・」
「わかった・・?」
「でも、そんな・・まさか・・そんな事・・?・・偶然だったりして・・」
「俺は何か強いインスピレーションを彼女から感じて堪らないんだよ」
「出たな、お前の得意技。元気だなお前。不死身か・・。俺ならとっくに負け戦と諦めてるわ」
「だから、世の中には、諦めていい事とわるい事の二つがあるんだってばっ」

 私のインスピレーションは、考えれば、それは面白いものだった。彼女はあのスズランの写真のプレゼントを見て、気持が伝わり、嬉しくて、スズランのように白い姿なってしまった。・・それは、まるで花の化身、花の精と言ってもいいほどで、つまり、それは私にその気持を伝えるための意思表示に他ならない。・・というものである。
 スズランの花言葉を彼女は知っているだろうか。人の手で作られた花屋や植栽のものにはない野の花の美しさを私はその時たしかに彼女に見出していた。その白い花の雨に負けない強さ、害敵を寄せ付けない強さというものを私は知っていた。

彼女の姿を見れば見るほどに、私のその想いは真実味を増して行くのだったが、それが唯の甘い幻想ではないことを確かめる必要があった。
意を決し、私はその白い姿の彼女の前におずおずと歩みを進めた。何時ものようにレジで下を向き何やら手作業をしている彼女。その視界の前の書棚に私はあの時のようにまた佇んだ。
私のインスピレーションが本当かどうか、確かめるために他ならない。もし、それが見当違いなら、性懲りも無く平然と目の前に現れた勘違い男に対して彼女はどんな表情をするだろう。何食わぬ顔をして暫く本を立読みする形で黙って横顔を晒す私は、まるで無罪判決を正々堂々と待つ被告人のようだった。

「どうだった・・?」
「彼女、黙って下を向いたままなんだ。真ん前に居る俺に気付いてるのに・・」
「どんな様子なんだよ。迷惑そうな顔とかはしていないのか?」
「それはないから一先ず安心したんだけど・・」
「だけど・・何だよ。それなら上出来じゃないか。彼女の怒った顔を見た俺からすると、それは随分な心境の変化だと思うぞ、彼女」
「それが、解らないんだ。彼女の本心・・。表情も・・」
「恥ずかしそうな感じとかは?」
「いや、今度ばかりは本当に解らない。こんな事は初めてかもしれん」
「ポーカーフェイス・・か」
「そうだな。・・それにしても、何でそうなる?・・あれじゃ俺はどうしたら良いか分からない。白い服の意味も・・」
「黙ってその意味を読み取って欲しい、という事とちがうか?」
「ああ、それは俺も思ったよ。確かにヒシヒシと伝わるものがある」
「だろ・・正解なんだよ、お前のインスピレーション」
「だったら、やっぱり、これは凄い事なんだけど・」}
「凄い事だよ本当に。白いままだし。これこそメルヘンというものだ」
「メルヘンか・・。それにしても、どうしろというんだ?俺にはそれが分からない。ポーカーフェイスを決め込んでるみたいだし・・」
「じつは恥ずかしいんじゃないかな?ああ見えても・・」
「そう思えばそうかも知れんが・・恥ずかしさを過ぎてポーカーフェイスになったったのかもな」 
「とにかく、これはメルヘンに違いない。やったじゃないかっ!これこそお前の世界だろうが」

 初恋は成就しない。・・それは昔からよく耳にする定説である。しかし、それははたして世界共通の話だろうか。私は色々な比較文化論の文献に触れたことで、漠然ながらも既にその時そんな疑問を誰となく投げかけていた。そこには日本独自の恋愛事情というものがあり、故にそれは日本ならではの特別な諺の体を成しているのではないか。・・と。キーワードは「曖昧」。やはりそれに集約されるのであった。曖昧は恋愛に於いても日本人にとって必須のアイテムに違いないのだ。・・と。
 恋が始まると、世界が薔薇色に変わり、人は皆美しく光り輝く。それは確かに人間世界共通の事実に違いない。しかし、問題はその先である。恋愛の成就とは何か・・。そもそも「恋愛」とは・・。「本物の相手」とは・・。そして「日本的恋愛」とは・・?
 ちっとも上手く行かない恋愛に業を煮やした相棒が、或る日、映画館の行列の前のカップルを見て大きな溜息を吐いて呟いた。

「あ~あ・・どうやってくっ付いてるんだろうなあ・・」

 聞こえないように呟いたつもりだろうが、私の耳だけでなく、そのカップルにも彼の呟きが聞こえたようで、二人して顔を見合わせこちらを振り向いた。そして聞こえない振りをするように直ぐに前を向き、何事もなくなった。しかし、その時男が女の肩を抱き寄せて、女が男の方に頭を傾けた。私は、それを見て、正直すぎる相棒に呆れながらも咄嗟に反撃を少し試みた。

「だから・・曖昧・・だってば。・・あいまい・・」
「ああ、それか・・。そういえばそうだった・・そうだそうだ」
「その話はもういいだろ。解った筈だっただろうが」
「曖昧、曖昧・・曖昧な自我・・」

 これ以上話すと険悪な空気になり兼ねないので、私は相棒の足をコツいて嗜めた。そのまま続けると、ウディ・アレンの「アニー・ホール」の一場面と同じことになったかもしれないが、此処は日本で、現実である。とにかくその議論はまた棚の上に仕舞い込んむことにした。こうやって、何時の間にか私達の頭の上の棚には幾つものとりとめもない議題が山積みにされているのであった。

「本物の恋愛なんて夢の世界だし、本物の相手なんて幻想だろう。俺には所詮ムリな話だ」
「そう思いたければそう思え。俺は今そう思わない。俺は丸善ちゃんが本物の相手かもしれんと思ってるんだよ」
「かもしれん・・よな。・・か・も・し・れ・ん・・」
「ああ、それで充分だ。幻想だなんて思ってないよっ」
「お前は特別だな。俺には・・」
「お前だって何回失恋してもめげてないじゃないか。俺の何倍も失敗してるだろうに」
「お前は強いからいいなあ・・。俺は弱いから、やっぱりもっと楽に何とかならないものかと思っちゃうよ」
「俺だって、それは同じさ。言っただろ。・・近付いたら自然に始まる・・そんな恋愛がしたいんだよ俺は」
「近付いて、始まらなかったな・・。あの子、本物の相手じゃないんじゃないのか・・?」
「いや、ちょっと待ってくれよ。・・始まった所かもしれん・・ということだ」
「わかった。ゴメン。俺もあの白い姿には意味があると思っているよ。ゴメンゴメン」

 相棒は、同時進行していたマクドナルドちゃんの恋が実は悲惨な結末で無残に壊れたこともあり、何かと悲観的になりがちだった。「お前に夢を託した」と言いながら、それでも応援してくれている彼は、私にとって頼もしい存在に違いなかった。
 そして彼の励ましと協力のもと丸善作戦は暫くの間続く事になるのであった。

 「俺だって楽をしたいよ」・・これは私の本音に違いなかった。「楽に恋をして楽に本物の相手を見付けて楽に成就する」それに越したことはないに決まっているのだ。ふとした出会いから、何の駆引きもない恋が自然に始まって、それが本物の相手だったら、どんなに幸せなことか・・。なんとなく好きになって、なんとなく恋が始まって、なんとなく結ばれる、というのはどうか。幾ら楽だとはいえそれで本物に出会う可能性は天文学的に低い数字に違いない。前者も現実的には決して高いとは言えないであろう。
 しかし、「本物の相手とは」という課題について、若い私はひたすら眩しいばかりの容赦ない理想論を展開していた。それは一言で言えば、お互いの人格の全てを自分のものとして受け容れられるほどに好きになれる相手。勿論それは良い事ばかりではなくて。はたして人はそれ程に人を好きになれるものなのか・・。そんな人に出会えるだろうか・・。しかし、その時の私には自信があった。そして、それは決して砂漠の砂に埋まった宝石ではなく、また、見付けられないのは近くを見落としているだけである、という有り触れた結論さえも蹴飛ばして・・・真実を背負い、砂漠を彷徨い、困難を乗り越えて、坂道をひたすら登り、そして本物に巡り会う・・「それが青春なんだ」という意気込みである。たとえ障害物が「曖昧の壁」という世にも奇妙な代物だとしても・・。
 
 ご覧のとおり、野の花に喩えるような美しさに魅かれる私の恋ではあるが、それに喩えられて果たして女性は本当に嬉しいだろうか・・。そんな心配が実は私の中にあるのも確かであった。嬉しいとしても、そんなに理想化されても困るのではないか・・。そんなに思い詰められたら困るのではないか・・。「そんなにも私は綺麗ではないし、いったい私の何を知っているというの」そんな言葉が容易に思い浮かぶのだ。男も女も、未熟な自我故のそれは当然の感情なのだろう。恋の成就は自我の完成において最低限の形を作り上げ、人が男と女に分かれている以上、それは宿命なのだろう。
 しかし、その機会があればの話ではあるが、それに対して、そんな心配を吹き飛ばす返し言葉を何時も用意している私であった。「僕が綺麗だと言ったら綺麗なんだ。それが全てだ」「もしかしたら僕は君が知らない君を知っているのかもしれないし、それが何であろうと僕は君を好きになる。それでいいだろう」というものだ。「痘痕も笑窪」というものは、盲目の愛の喩えだが、その審美眼と理解力が本物であれば、それは究極の愛であるにちがいない。
 人が異性を好きになるのは、本能に相違ない。それは、片割の自我の希求によるものだろう。そして、本当に「好き」になるのは、恋愛が成就してからなのだろう。漠然としたそんな予感が、恋をする私には何時も有ったのかもしれない。

「それにしても、あの白い姿に意味が有るとしたら、確かにこれはメルヘンかもしれんけど・・何で手紙とかでその気持を知らせてくれないんだよ・・」
「そうなんだよな、俺もそれは考えたよ当然」
「で、どうなんだよ・・そこんとこ」
「お前、解ってるだろ。何時もの話さ・・」
「ああ、曖昧・・という話だろ。だから、何で曖昧なんだよと・・」
「つまり、彼女もれっきとした日本人だったということさ」
「がっかりだな。もうやめたくなるわ」
「俺が贈ったスズラン。あれは実はドイツスズランなんだよ。乗鞍高原のスキー場に群生しているやつだ。つまり帰化植物」
「ほう、そうだったのか・・。彼女も帰化した二世か何かということか?そういえばそう見えなくもない・・」
「俺はそう思わない。彼女がそうだったら興味ないかも。つまらんよ」
「どういうことだ?」
「日本人が全て日本的だとは思わないんだ」
「俺たちみたいにな」
「曖昧の壁を乗り越えることに意味があるんだ。俺も、彼女も・・」
「彼女、大丈夫かなあ・・?」
「だから、あのスズランは、俺が見立てた彼女のイメージなんだよな。彼女の中にはきっとそれが有る」
「今のところは日本スズランでしかないな」
「ああ、まったく日本らしい意思表示ということだ。それはそれで確かに美しくもある」
「日本的には日本的で対応すれば上手く行くだろ」
「どうしろと・・?」
「例えば・・。お前も服装で返事するとか。そうだ、お前も真っ白になれっ」
「はは。面白いけど、なんか眩しすぎるな、それ。余計に困った事になったりして・・。その先が問題ですよ」
「とにかく、何も無かったように、何も言わずに、そこんとこ曖昧にして、先ず何処かに誘うとか・・」
「それが俺には出来ないんだよ。困ったもので。もし、あえてそれで上手く誘えても、曖昧のままにしてる事に耐えられそうもない。その日に思いの丈を告白しちまうだろう。」
「それで一巻の終わりだな、また」
「言ってはならない真実を咥えて見知らぬ鳥が飛んで行く・・・」
「なんだそれ」
「公園に来て・・by小椋佳」

 彼女は白い幻想なのか・・。今どき時代遅れな純情男の儚くも滑稽な、ラ・マン・チャの男の妄想なのか・・。
 それが否定されるのは少し後の事であっても、その時の私には何の確証もなく、それは心許ないかぎりであった。しかし、その時の私が彼女を思う気持の強さには驚くべきものがあった。相棒との会話の中でそれは確かめられることになる。

「お前のインスピレーション本当に本物なのか?俺も信じたいんだけど、本当なのかよ?」
「なんだよ、また、何回も言わせるな」
「彼女はお前の事まだ何も知らないし、お前も彼女の事・・」
「だから、それが良いんじゃないのか。それこそが本物のインスピレーションというものだって、言ってるんだよ。他には無い何か・・今自分が必要とする何か・・大事な何かを見出してるということ・・それでいいじゃないか」
「じゃあ、聞くけど・・。彼女の実際が・・もしお前の想像と違うものだったら・・たとえば・・」
「たとえば・・何だよ・・。彼女が処女じゃないとかか」
「わお・・」
「年頃の可愛い子の処女率なんてゼロに等しいって事くらい知ってるよ。嘆かわしい御時勢だ」
「それに比べて年頃の純情男の童貞率ときたら・・。バランス悪すぎる」
「そんな事は想定内だよ。まあ、夢は綺麗な方が良いんだけどね・・」
「そうか、でも・・例えば、実は彼女には今付き合ってる男が居るとか・・いや、実は結婚してて旦那が居るとか、それも想定内と言うのかよ?」
「正直言うと、それはちょっと想定外だな」
「だろ・・。もしそうだったらどうするよ・・?」

 相棒の詰問は、それは鋭く的を突いたものに違いなかった。彼の訴求力も大したものだなと感心したものだ。彼女を想う美しい夢の一方で、それは想定外とした上で既に一度は考えてみた事だった。しかし答は出ていなかった。

「もし、そうだったら・・ちょっとイメージが違っちゃうな、やっぱり」
「だから、どうすると・・?」
「それよりも、先ず、今俺が感じ取ってるインスピレーション・・つまり、求め合う何かが本物かどうか・・それが肝心なんだ。・・それが本物だったら、たとえ彼女に男が居ても、それが旦那だったとしても・・彼女が俺に何かを求めてるとしたら、それが何かという事が肝心なんだ」
「ほおー・・」
「もしそうだったら、それこそ俺は無視できないな。もしかしたらそれは彼女のSOSかもしれないじゃないか。」
「ほお、ほほーっ・・」
「インスピレーションが本物かどうか。相手を間違えてないかどうか。頭じゃなくて心でね。・・それが本物の恋愛だと思うんだよ、つまり。・・彼女の相手にケチを付ける気はないんだけどね。」

 私たちの「本物談義」は、何時も留まる所を知らず、それは、翼を広げて虹色の雲を潜り抜け、自由に心の青空を飛び回る二羽の名も無い若鷹のようだった。そして相棒の詰問は更に続いた。

「じゃあ、彼女が実は病気持ちだったら?・・例えば、癲癇持ちで、時々突然気を失うとか・・」
「なんだそれ・・面白いな」
「マジで・・」
「やだなそれ・・でも・・」
「でも・・?」
「もしかしたら、余計に・・愛おしくなるかも・・」
「本当かよ・・」
「ああ、本当だ。それが愛というものだ。・・なんてこと言わすなよバカ」
「よく言うわ。この本物男が」
「お前が言わせてるんだよ。コノヤロー」
「じゃあ、もしも彼女が結婚してたらどーするよ・・?」
「あり得ないけど、それは、ちょっと面倒くさいな・・。でもなんとかするさ」
「大したもんだなそれは・・。そこまで言うか」
「お互いに求めるものが何で、それが本当にマッチしてたら・・の話だけどな」
「お前が彼女に求めるものって何だった・・?」
「何?とかじゃないって。性格にしろ何にしろ、別に完璧なものなんて求めてないし」
「お前、相当な面食いだぜ」
「野花の美しさは求めてるかもね。心もそれは綺麗な方がいい。でも、俺が一番求めるものは・・。俺の事を世界中誰よりも理解してくれて、誰よりも好きになってくれること。そんでもって俺も彼女の事を。・・これが本物の相手だな。」
「ジョン・レノンみたいだな」
「?・・」
「大統領もジーザスも信じない。信じるのはヨーコと自分だけ。と言ってるよ」
「ああ、ドント・ビリーブ!って叫ぶやつだな。・・究極的だな、あれは」
「到達しちゃってるんだ」
「そんな相手を見付ける探知能力がつまり本物のインスピレーションって訳だ」
「じゃあ、もしも・・」
 
 相棒のそれはまるで留まる事なく続き、もはや仮説は妄想の域にまで広がって、私の回答はそれにめげることなく追随して行く。じゃあ、彼氏がもしも・・。じゃあ、旦那がもしも・・。彼女がもしも・・。もしも・・・。もしも・・・
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写真集「四季の肖像」の作者です。
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