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28丸善作戦

「あなた達のやってる事って面白いのよね。漫画か小説にでもしたら売れるかもしれないわよ」
 これは、この恋愛大作戦の最中において彼女が私に伝えた言葉だ。最初がそうであるように、思えば私と相棒は彼女の周りで如何にドタバタな恋の珍作戦を展開していたことか、言われてみれば言いえて妙だ。何はともあれ、これは後々彼女自身が認めるところの一大恋愛に違いない。
 彼女とは、丸善ちゃん、つまり私が名古屋時代に当時想いを寄せて拙いアプローチをしていたところの、あのスズラン娘のことに他ならない。
 あの「スズラン事件」の後、私達は前にもまして彼女を遠巻きに眺めることになり、その気持の真意を推し量るのに苦労していた。

「あの白い姿は絶対に意味がある。第一あの雰囲気はただ事じゃないぞ。彼女はお前を待ってるんだよ」
「本当かなあ?近付いても目が合わないし、ヘンな感じじゃないんだけど、何時もただ澄ましてるだけなんだよな・・」
「怒ってないし、むしろ良い感じに見えるぞ、あれは」
「俺もそう思ったりするんだけど、本当かどうか・・」
「惚けるな。お前が一番わかってるくせに・・」
「それにしても、だとしたら、どうして返事をくれないんだよ。断わりの返事も・・」
「一度あんな悪態をとっちゃったから、気まずくて素直になれないんじゃないのかな」
「困ったなあ・・俺に一体どうしろというんだよ・・あれが今の俺の精一杯で、あれ以上の事なんて出来ないんだよ俺にはもう」
「彼女を帰り道で捕まえて、その大きな包容力をもって声をかけるのさ」
「どうやって?」
「・・・。・・君の名は?・・とか」
「映画にしても古すぎるだろ。・・それで始まるんなら苦労しないよっ。包容力なら自信あるけど・・。最初、それで始まると思った俺が大間違いだったのは、学生の時とっくの昔に経験済みだから」
「ああ、大学時代のあの子の件な。あれは俺にも意外な結果で、ショックだったわ。・・あの時の後遺症が大きいんだな」
「そうかもしれん」

 大学時代の一大失恋の事については詳しく述べないが、それは、そのままは或る映画シナリオの一編にな.るほどの出来事だったのには違いない。
 とにかく、その失恋の後遺症は確かに事のほか大きくて、私の自然な足取りの重い枷になっていたのは確かであった。

「ちょっと、お前、助けてくれないか・・」
「えっ?・・何を・・」
「お前が彼女を捕まえて、仲を取り持ってくれよ。その方が上手く行くかも。あの続きということもある」
「えっ・・俺がかよ・・俺の失恋後遺症も相当なもんだぞ。知ってるだろ・・」
「取り持つくらい何でもないだろ。他人事なんだし。ここは頼むよ。頑張ってくれ」
「俺にジェームズ・コバーンくらいの雰囲気でもあればお安い御用なんだけど・・。ゼンゼンだからして」
「おお、ジェームズ・コバーンはよかったな。確かにそれなら一発だろう。頼みたいな、もう本当に・・」
「わるいな・・力になれなくて」

 考えてみれば、二人の力不足は仕方なかった。二流大学のオチコボレが就職浪人よろしくアルバイトをしながら自己流の写真修行に明け暮れる毎日、何を己のアイデンティティの頼りとするか、何の自信をもって彼女にアプローチをするか、考えるほどに心許ない。頼るのは、彼女に対する己の誠実、写真家としての己の才能。その二つの夢のインスピレーションが本物だと信じる力。見詰めるほどにそれは漲り、それは時にどんな悲観論も寄せ付けないほどなのだけれども。
 しかし、信じるにもその悲観論は容易ならぬもので、その元はやはり当時一大ブームだった悲観的日本文化論である。「日本の常識は世界の非常識」に始まり「日本人に生まれて損か得か」でそれは結論付けられ、私は損をする日本人に他ならないないという自覚を持っていた。そして、社会に出たら漠然としたものながらその災厄と闘う覚悟をしていたが、その相手の正体が「曖昧」という代物だということは具体的には承知していなかった。「日本的」という形容詞を「恋愛」に当ててみたが、それがどういうものかも理解しきれずにいた。「日本的恋愛」なるものの言及はどの書物にも著されていなかったからにちがいない。

「今日もまた白いぞ彼女」
「本当だな」
「白いうちになんとかしないと・・」
「そうなのかもな」

 彼女の白さとその眩しい雰囲気に見惚れる二人であったが、かといって何の行動も起さないという不思議に幸福な時間が暫くそこに流れた。そして、次第にその白さは消えて行き、私達はそのチャンスを失うことになった。
 
「やっぱり、あの白には意味があったな」
「白くなくなって、彼女、淋しそうじゃないか?」
「諦めちゃったのかな・・?」
「そうかもな」
「お前はどうなんだよ・・?」
「俺は諦めてないけど」
「どうするつもりなんだ・・?」
「そのうち何とかしようと思う」
「これは長期戦になるかもな」
「彼女が其処に居ればいいんだ。頭を冷やせば新しい事も起きたりするさ」
「そうだな、インスピレーションは間違いないから」

 そして、まるで何も無かったかのうよな空気が流れ、其処には一段と綺麗になったような彼女が存在していた。 私達は以前よりも増して見惚れるように彼女を眺めることになり、それはあたかもバードウォッチングのようなのだった。アルバイトや撮影の帰りにも必ず立ち寄り、彼女を見るという習慣が続いた。

「居た居たっ!」
「当たり前だ、消えるもんか。消えてたまるか」

 何故か、私には、この恋がこのまま終るものではないという自信があった。彼女を見れぱ見るほどにそれが本物の相手であるという確信が強くなる。決して誤った勘違いや勝手な片思いなどではないという確信である。
 季節が移り、何時の間にか周りがクリスマスの飾りに彩られる頃、彼女は未だ其処に居た。その日、私達は何時ものように彼女に会いに行ったが、遅くなり、閉店前の時間になってしまった。そして12月24日クリスマスイブだった。

「今日、彼女の帰りを見てみたくはないか?」
「それは止めておこう」
「なんで?」
「クリスマスイブだぜ」
「だから・・」
「何か野暮だわ」
「怖いのか・・彼女が男と待ち合わせてたり・・それが・・」
「いや、まあ、それは無いと思うけど・・」
「だったら、見届けようじゃないか。それを・・」

 書店が完全に閉まり、暫くすると、従業員の出入り口から彼女は出て来た。私達は柱の陰に身を潜め、恐る恐るそれを眺めた。午後9時になるとセントラルパークの地下街は何処も閉店になり、それは早いものである。そして9時を過ぎ間もなく、男の店員が二人先に出て来て、何やら待っている。それに続いて女性が三人。その一人が彼女。服装は先ほどと同じ普段着の私服のままだ。男達が彼女らに話し掛けている。何処かに誘っているようだ。すると三人は手を振ってしきりに断わっているではないか。男達は笑って諦めその場をあっさりと立ち去った。残った三人は和やかに談笑した後どこかへ並んで歩いて行くので、私達は思わずその後に続いた。三人は別れることなく、地上に出て何処かに入る店を捜しているようだ。終るのが早い地下街よりもテレビ塔のある100メートル道路の公園通りはクリスマスのイルミネーションが光り何時になく賑やかだ。心なしか彼方此方にカップルが目立つ。何件かを見送った後、三人は一件のイタリアンレストランに仲良く入って行った。

「なんか、いいな、これは・・」
「そうだな、いい感じだな、これは本当に」
「あの男の店員、振られてやんの」
「当たり前だ。誰がそんな簡単に・・」
「これからどうする。中に入って様子を見ようか」
「狭すぎて見付かっちゃうな簡単に」
「いいんじゃないか。それも」
「いやいや、それはちょっと・・」
「お前は慎重すぎるんだよ」
「お前は軽率すぎるけどな」
「見えるんだけど、三人のままか最後まで見届けようぜ」
「もう9時過ぎだし、彼女たち何かを食べ始めてる」
「そうだな、俺もなんだか腹減ってきた」
「よしっ、今日はここまでだ。お開きとしようっ!」
「俺達も何処かでメシを喰うことにしようっ」
「やめとくよ。クリスマスイブのこんな時間に男が二人とか・・やだな」
「そりゃそうだな。お開きお開きっ!今日はなんて平和なクリスマスイブなんだっ」

 そうやって私達の(彼女から見れば)下手糞なバードウォッチングは暫く続き、季節は冬を越して何時の間にか春を迎えることになる。
 そして春浅い或る日のこと、彼女は・・
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